みかんぼうや

浮雲のみかんぼうやのレビュー・感想・評価

浮雲(1955年製作の映画)
3.8
昭和邦画の巨匠成瀬巳喜男監督の作品初鑑賞。成瀬監督の代表作とも言われる本作、ラスト5分までは、★3.1をつけるつもりでしたが、ラスト5分で一気に★3.8まで上げました。

作品全体としてはドロドロの不倫劇。おまけに主役が、かなりの浮気性で自分都合ばかりの言動をする現代的に言うならばいわゆる“クズ男”室岡と未練タラタラで嫉妬心が強く何度裏切られても成長しない女 ゆき子という2人。

仕事がうまくいかない人生の喪失感を女性で満たそうとする室岡はもちろんのこと、室岡に固執するあまりなかなか自分の人生を前に進もうとしないゆき子にも、最初は同情こそしていたものの全然共感できない。途中からは室岡のあまりにも自分勝手な言動とそれに振り回され続けるゆき子がだんだん滑稽に見えてきて、これはある種のコメディなのか、とちょっと笑ってしまうほど。

ですが、ラスト5分のあのゆき子の顔と回想シーンを見させられたら、やはり男は胸がグッと詰まる思いになります。それまで全然共感できなかった“先に進もうとしなかった”ことへのモヤモヤが、この最後のシーンで積もり積もって伏線となり、急に愛おしくなる。まるでフェリーニの「道」、溝口健二の「雨月物語」を思い出させるように。この手のラストに自分はつくづく弱いのだな、と本作をもって再確認しました。

こうなるともう成瀬作品を放置するわけにはいかない。「乱れる」「驟雨」「女の庭」「流れる」など、フィルマ平均評価3.9~4.2の作品が目白押しの監督。一気にフィルマのマイリスト登録数も増え、果たして次はどの作品から観ていくか、なかなか悩むところです。
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