例えて言えば、憧れ、とか、迷妄、という言葉がふさわしいのだろうか?
「恋」というにはあまりに慎ましく、それでいてぬぐい去りがたく強く存在する、ある女性への執着を、月ごとに訪れる異なった女性の客人と、かつて関わりがあったらしい通訳の女性からの留守番電話に入るメッセージを重ねて描いた作品。
物語は、トルコにあるらしいアルメニアの史跡を男性と通訳の女性、ドライバーが訪れるところから始まる。
シンプルだが美しいフィルム。エゴヤンの映画の核の部分だけが描かれているようだ。
月ごとに訪れる女性は全て言葉も雰囲気もそれぞれに違うが、多くはインドからヨーロッパまでの様々な言葉をしゃべっている。自らが捨ててきた旧大陸への憧れと女性への想いが重なっているのだろうか?
主人公の男性をエゴヤン本人、通訳の女性を妻のアルシネ・カーンジャンが演じている。
カーンジャンが演じる女性はアルメニア語をはなせるが、エゴヤン演ずる男性は、アルメニア系であるのにそれを理解できないようである。
余談だが、エゴヤン夫妻の関係は、どこか、ジュールズ・ダッシンとメリナ・メルクーリの関係に似ているような気がする。映画監督と女優のカップルはどこか対等でなく、女優の方が監督に遠慮しているように見えることが多いのだが、この2組はなぜか、圧倒的に妻が大事にされている気がするのだ。
(VHS/アメリカ版)
(人恋しくて 2009/6/6記)