このレビューはネタバレを含みます
100円で緊急上映してたのと、ガザ地区について知りたいと思い、観た。
ほとんど場面の変わらない会話劇。
登場人物たちがそれぞれどういう関係なのかは会話から読み取っていくしかない。
実生活でも、人の輪に途中から入ると、会話の流れから誰がどういう話をしてどういう考えを持っているかといったことを推測する必要があるが、この映画はそれを完全に再現している。
つまり、我々観客は「美容室」に紛れ込んだ客の一人かのような感覚を味わう。
性的魅力を諦めない中年女性、結婚式当日の花嫁とその母親・義母・義妹、信心深い女性とその付き添いで来た口の悪い女性、出産間近の妊婦とその妹、ロシアからガザに移民してきた美容師とその娘、そして雇われているパレスチナ人の美容師。
それぞれ言いたいことを言いたいだけ言って、やりたいことをやりたい放題やる。
お蔭で文字通りカオスだ。
そんなカオスの中、イスラエルのドローンが通ったせいで電波障害が起き、続いて電力供給が遮断され、やがてマフィアとハマスの闘争が起こり銃撃戦になる。
美容室の中でも外でもカオスだ。
最後、産気づく妊婦と銃撃を受けて瀕死状態のパレスチナ人美容師の恋人が同じフレーム内に収まっていたのは生と死の象徴だろう。
象徴といえば、他にも、赤い口紅やライオン、タバコとドラッグがある。
赤い口紅は性的魅力、ライオンはマッチョ=男社会や権威主義、タバコとドラッグは娯楽が少なく精神が不安定な状態に追いやられているといったことを象徴していると捉えた。
※よくよく考えると、ライオンはイスラエルの象徴?
だが、象徴を捉えることが何だというのだろう。
命が危険に晒されている状態で思考なんてなんの意味があるのかと投げ捨てたくなってしまう。
しかし、考えなければ、抵抗しなければ生き残れない。
映画館を後にし、周りを見渡すと電灯がキラキラと光り、爆撃音もなく、人々の笑い声がこだましている。
「ここが24時間電気が来る豪邸だと思ってるの?」
胸が痛くて、痛くて、涙を堪えて電車に乗った。
私はやはり平和ボケした国の女だ。