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サンガイレ、17才の夏。のギルドのレビュー・感想・評価

サンガイレ、17才の夏。(2015年製作の映画)
4.8
【夢の追憶と成就に寄り添う美しい偶然の出会い】
■あらすじ
ある夏のリトアニア。
別荘のある田舎町にやって来た17歳のサンガイレは、航空ショーで空中を自由にアクロバット飛行する飛行機に心を奪われていた。彼女は世界王者の操縦する飛行機に同乗することができる抽選に選ばれたが、高所恐怖症でコックピットに入る勇気さえない。
そんな彼女はショーでアルバイトをしていた同年代のアウステと知り合い、やがて惹かれ合い、恋人同士となる。アウステは消極的なサンガイレと違って、デザイナーになる夢を持ち、創造力と大胆さをもって人生を謳歌していた。 アウステとの出会いによってサンガイレも、勇気を持って夢を追いかけることになる…。

■みどころ
大傑作でした。
アランテ・カヴァイテ監督は本作が長編2作目で、音楽にフランソワ・オゾン『Summer of 85』のジャン=ブノワ・ダンケルとタッグを組み、2015年サンダンス映画祭で複数の賞を受賞し2015年「カイエ・デュ・シネマ」誌ベストテンでは第9位にランクインした力作である。
実際に本作を見ると、ひと夏の青春もあって、その青春で見える日常の瞬間瞬間の美しさもあって、音楽のチョイスも素晴らしくて、二人の掛け合いと成長物語が素敵な高水準なヒューマンドラマ映画でした。

舞台は工場と森林が隣接したリトアニアの田舎町。
曲技飛行に憧れるも、高所恐怖症であることや親から名を呈していない事についてトラウマを抱えて空を見上げるしか出来ないサンガイレ。
そんな彼女が航空ショーのアルバイトしていたアウステに出会って、アウステの自分とは違う感性を持ったり彼女の振る舞いに刺激を受けて夢を追いかける…というのが本作のお話。

自分と異なる人と出会って、今まで指咥えて見てきた目標に向き合って挫折しながらも…な話はミニシアターでよく観るタイプの映画だと思う。
本作が他の映画と異なるのはカメラと音楽の技巧にあると思う。「何を見せるか?ではなくどのように見せるか?が大事」というフレーズに重きを置く自分にとって本作は映画でよくあるテーマを力説するカメラとライブ感を上げる音楽の選定が見どころに感じました。

カメラはサンガイレのリアルだけでなく、曲技飛行をする彼女の目線や彼女の抱えるトラウマを映す。
本作はひと夏の輝かしいリアルだけでなく、夢を叶えられない事で生まれるやさぐれ・フラッシュバックの空想を地続きに映している。その間で揺れ動くサンガイレと、デザイナー志望のアウステが出会い「どんなに辛くても隣に私がいるよ」と寄り添う姿と視える世界は綺麗で愛おしい事を伝える姿に泣いた。
他にもサンガイレとアウステが徐々に出会うのに、カットバックであたかも同じ空間に地続きにする姿も面白かったです。

ひと夏の思い出で個人的に好きな映画にルカ・グァダニーノ「君の名前で僕を呼んで」があり、その映画の好きな理由に音楽チョイスやヨーロッパ片田舎のカラッとした夏の風景がある。
本作も同じで前半の音楽選びが素晴らしく、アウステの仲間たちと一緒に遊ぶ時の音楽の軽やかさ・アウステとサンガイレが恋に落ちる時の幻想的で夢のような音楽、やさぐれながらも夢に向かって希望を取り戻すあのキラキラした音楽…と、画作りを盛り上げる音選びが見事だなと感じました。

それに負けない画作りも良くて、夕焼け・イルミネーション・木漏れ日など…光を象徴的に扱う綺羅びやかな美しさがあって良い!
サンガイレを被写体にアウステが様々な場所で撮影するシーンがあるが、工場や廃墟じみた建物での撮影からスタートして段々と自然に溢れる場所へ撮影が進み、最後の夕焼けと草むらに囲まれたドレスアップは凄く良かったです。

しかも単に絵が綺麗なだけでなく絵の中に一種のストーリーを持っていて段々と高揚感溢れる姿も素晴らしかったです。
画作りやストーリーに関する事はネタバレになるので別でまとめます。

そんな本作は過去のトラウマが足枷になって夢を叶える事にビビって指咥えていた少女の決意と挫折と再生の物語。
その夢叶える事が難しくて時にはやさぐれるけど、そんな時でも立ち直るには他者の存在が如何に大切であることを教えてくれる。
夢を叶える為に最後の最後には自分の力がいるけど、自分の力を振り絞るには他者の出会い・激励のバフが如何に大切で美しいかを教えてくれる本作に感動しました。

夢を追う中で結果も大事だけど、そのプロセスも大事で人との偶然の出会いや克服する所に美しさ・力強さを内包した素晴らしい映画でした。
オススメです。




↓以下、軽いネタバレあり↓


■みどころ:アウステの気配り
本作で印象的なのはサンガイレの自傷跡に対するアウステの気配りである。
アウステとサンガイレの出会うきっかけの航空ショーで、サンガイレは"17"のカード番号を引いて曲技飛行に参加する権利を得るも逃げ出してしまう。
自宅で逃げ出した事に嫌気が差してコンパスでアームカットをしてしまう。
サンガイレは過去に親から"名を呈していない"という事をトリガーに自傷を犯し、自傷癖に発展してしまう。

その後、アウステの家に入ってサンガイレ用の服を作るための採寸でサンガイレの自傷跡を見るも何も言わない。
その後、二人で水着を着ながら日光浴をしている時にアウステはサンガイレに自傷の事を聞くもアウステは自傷に対して出会ったきっかけの数字"17"の事を伝えたり、片腕に14本の自傷跡があるのを観て「あと3本やったら終わりにしてね」と言ってアウステ自身も腹部に自傷する。

自傷というセンシティブな行為に対して「自傷しないで」という言葉がけではなく、出会ったきっかけの事を伝えて"出会った事"を認知させたり自傷しない為に痛み分けをするアウステの気配りは他の映画にない優しさがあって素晴らしかったです。

■みどころ:画作りで伝えるトラウマの克服
本作は画作りの"光"を象徴的に扱う美しさもある一方で、"空"に纏わるストーリー性もある。

そこにはサンガイレの抱えるトラウマに対して、アウステとの偶然の出会い・刺激を通じた再生が存在し、その見せ方がとにかく素晴らしかった。

高所恐怖症で曲技飛行が怖くて出来ないサンガイレは空を見上げるしか出来ない。
夢を断念した彼女は曲技飛行で自由に動ける代償として自転車で走り回り、航空ショーで模型になっている曲技飛行の飛行機を見る…という夢を断念した事で酸っぱい葡萄のような行為で代償するところからスタートする。
けれども本作は随所に空から見下ろすカメラが支配的になり、曲技飛行するサンガイレの空想の目線を地続きに映すのが印象的である。

やがてアウステと出会い、サンガイレの空想の目線の中にアウステの実存が介在するようになり、段々と曲技飛行を叶える方向に力学が働く。
が、高所恐怖症や曲技飛行が出来ないトラウマが生まれ、水中のぼやけた視線や飛行機が火を上げて墜落するトラウマの幻想をも地続きに映す。

ここに夢を叶えるプロセス中に見えるトラウマや夢を達成出来ない事への代償・願望の目線を取り入れる所に他の映画にない見どころが内包していると感じました。

様々な紆余曲折、アウステとの衝突、母のバレエの体験談・アウステの寄り添いを経て、自身のトラウマを克服するのにサンガイレは出来るだけ高い場所へ登ろうとする。
やがて一番高い場所である送電塔に登り、サンガイレは高所恐怖症の克服と共に見上げるしか出来なかった空の美しさを知る。
そして空を克服し曲技飛行する夢を叶えたサンガイレはアウステと共に空を見上げ、写真を撮影するが、その時にサンガイレはアウステに向けて自傷跡を撮影させて二人で自由に飛ぶ鳥を眺めて終わる。
アクロバット飛行士になったサンガイレはアウステと出会ってから、過去の写真を夢を眺めサンガイレ自身で曲技飛行する姿とそれを眺めるアウステを映して本作は閉じる。

夢を達成するのに夢を叶える為に最後の最後には自分の力がいるけど、自分の力を振り絞るには他者の出会い・激励が大切で愛おしくて美しいか?を写真という形で振り返って認知する姿に感動しました。
そのプロセスの連続にこそ大切なものが詰まっていて、偶然の出会いを題材に他者の介在の連続に途轍もない力を内包する事を強調して本作は幕を下ろすのであった。
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