クシーくん

キートンのハード・ラック/悪運のクシーくんのレビュー・感想・評価

4.4
今回も並の運動神経では到底再現不能の多彩なアクションを観られた。乗馬アクション一つとっても、馬の背の上で直立からの後ろ向きに地面に落下、走行中の馬から落馬、水中を泳ぐ馬を櫓で漕ぎながら逆さまに乗る、宙に吊ったロープを膝で挟んで逆さ宙返りした状態から馬に飛び乗る、最早自分で書いていても意味不明なアクションだが、これらを事もなげにジョークとしてやってみせる凄まじさ。他の動物を使うシーンも多く、いくら飼いならされたクマや水牛とは言えかなり危うい真似をしていて見ているこっちがハラハラする。

ストーリーは最初から最後までめちゃくちゃで、筋同様に無軌道に歩き回り、ゆく先々でトラブルに見舞われかつ自らも起こしていくキートンは歩く起爆剤である。最後のとんでもないオチに至ってはなんだか落語的。病的だがどうしようもなくユーモラスな自殺願望者から始まり、人を食ったような結末を迎える”ハードラック”は、一見軽い作品のようだが、キートンの人生観すら垣間見える。人生の運不運もキートンの無表情の前には少しシニカルでアクロバティックな笑いに変貌してしまう。
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