KnightsofOdessa

限界のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

限界(1931年製作の映画)
3.0
[ブラジル、無声映画の伝説] 60点

1932年の初上映以降80年近くに渡って観ることすら出来ず、監督も実質隠遁同然だったために伝説化が進んだという、マリオ・ペイショトによるブラジルのアヴァンギャルド無声映画。グラウベル・ローシャは本作品を"ブルジョワ社会の矛盾を理解できてない"と評したらしいが、書いた当時は鑑賞していないことを後に明かしていた。それくらい、誰もが語るのに観ることも叶わず、語れば語るほど伝説と化していったのだろう。フィルム自体はその期間存在はしていたのだが(つまり偶然発見されたとかではない)、保存状態の悪さと軍事政権による待遇の悪さによって、オリジナルネガを保護した人物(ペイショトの友人の教え子ペレイラ・デ・メロ?)は1966年から1978年にかけて個人作業で一コマずつ写真に撮って修復していった。WCFがそれを引き継いで2010年に修復が完了して今に至るという。歩んできた道のりも伝説的だ。

映画の冒頭で最も有名な、女性のバストショットと拘束された手のショットが登場する。どうやら、ペイショトが狂乱の20年代にパリで浴びるように実験映画を観ていた際、街角で見かけたアンドレ・ケルテスの写真にインスパイアされたらしく、正直そのまんま。その後、進む気力を失って大海原を漂うボートが登場し、そこに乗り合わせた三人の男女の過去がフラッシュバックという形で語られていく。セリフはほとんどなく、基本的に強烈なイメージだけで構成されている。一番目の挿話で、脱獄した女が田舎の畦道を歩いているのを、まとわりつくように周囲を一周するとことか、30年代の映画とは思えない。二番目の挿話の酒飲み夫の描写なんか、皆大好き『キッスで殺せ』の"マンハッタン計画、ロスアラモス、トリニティ"みたいな感じで、"継ぎ足される酒、薄汚い靴、手入れしていない髭面"と並べられて、一瞬にして破綻した結婚生活の一端を垣間見るとことか凄い。

ただ、回想部分は面白いけど長いし、同じようなショットを何回も使い回すから少々クドい。個人的には冒頭と終盤15分のボートのとこが一番良い気がしている。この題材なら70分くらいが最適な時間かな。
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