カツマ

ザ・コミューンのカツマのレビュー・感想・評価

ザ・コミューン(2016年製作の映画)
4.4
人間とは、愛とは、そんなに強いものじゃない。乗り越えられると思っても、環境の変化、時間の経過、それら全てが津波のように押し寄せて、平和だった日常すらも壊れてしまう。こんなはずじゃなかったと思った頃にはもう遅い。自業自得のようでもあり、約束されたかのような愛の末路は嫌になるほどに運命的な未来だった。愛とは人間にとって生命力であり、また毒でもある。それらをコミューンという媒体をもとに描いた、ほろ苦い人間劇場の幕が上がる。

『光のほうへ』『偽りなき者』など激重作品を連発してきたデンマークの雄、トマス・ヴィンダーベアによる2016年作品がようやく日本上陸!運命的とも言えるほど不幸な結末へと突撃していく人間模様に、美しい映像美と洒脱なカットを融合させる彼の個性が分かりやすく漏れ出た作品だった。胸糞のようでもあるが、そこに至るまでの原因と帰結、そして人間の心理状態を見事に描き切っており、全てのシーンに動機を見出すことができる。彼は人間の弱さと愚かさ、そして美しさを同時に映像化できる稀有な作家。そしてこの作品でもその魅力は遺憾無く発揮されていた。

〜あらすじ〜

大学で建築学の教鞭をとるエリックは父の死を受け、妻と娘と3人で住むにはあまりに巨大な豪邸を相続した。家を売りに出そうとするエリックだが、妻のアンナの提案に押され、友人を呼んでコミューンとして生活することを決意する。
豪邸に次々と集う個性的な面々。皆それぞれに主張はあるものの、何とかコミューンとしての形を成そうとしていた。
だが、エリックら親子3人の間には密かな変化が起きていた。アナウンサーのアンナは普段から忙しい身。我が家がコミューン化したことによって、更に夫婦の時間は減っていく。そんな中、エリックは学生の一人と恋に落ち、意識は次第に愛人へと向けられることとなってしまう。一見、コミューンは順調なように思えたが、不倫の実態を知ったアンナが下したある決断がコミューン内に荒波を立てることになり・・。

〜見どころと感想〜

不倫はいけない。それは間違いない。が、この映画はそんな当たり前のことを言いたい映画では決してなかった。平和だった家庭がコミューンという共同体となったことによって訪れる変化。そして、その心の揺れ動きを丁寧に描いた作品だった。愛とは不安定なものであり、ちょっとしたさざ波を被っただけで水の底へと沈み込んでしまう。その感情の在り処に『何故?』を突きつけると、実は自業自得でもあった、というほろ苦さにも気付くことができた。

主演にはトマス監督の出世作『セレブレーション』でも共演したウルリク・トムセンとトリーネ・ディアホルムのペア。二人はスサンネ・ビアの諸作品にもたびたび出演している名優たちで、北欧映画が好きな人にはお馴染みの顔かと思う。またコミューン内の泣き虫な貧乏人役で『特捜部Q』シリーズで名の知れたファレス・ファレスが出演。アサド役とは全く違うコミカルな役柄は一種の清涼剤として機能していた。

愛の在り処は安住せずに常に彷徨う。だからこそ、人は必死になるし、醜くもなる。それでも愛さずにはいられない。その結果としてなのか、人と人とはすれ違い、対立し、そして場合によっては別れていく。そんな愛の移り変わりを、淡々と冷徹に、そしてドラマチックに描いてしまったのがこの『ザ・コミューン』という映画だったのだと思った。

〜あとがき〜

今年のノーザンライツ3本目となった本作は個人的には今年のTNLFの目玉でした。何しろ名匠トマス・ヴィンダーベア、期待度は高かったです。そして、見終わってみれば今回TNLFで見た3本の中でも圧倒的な構築美を炸裂させ、実績と経験に裏打ちされた重厚な人間ドラマは抜群の完成度を誇っていましたね。
光を視覚化するカット、涙に濡れるカメラワークなど、トマスの映像技巧も美しく、演技派たちの名演と合体して、一本芯の通った作品を作り上げていました。

人によっては胸糞に思える作品かもしれません。が、トマスは人間の中にあるそれぞれの愛を映像化しただけなのかな、と思います。揺れ動くからこそそれぞれの愛は美しくも醜くもなる。人が増えれば増えるほど雑念も増える、という心理もまたしかり、と言い換えることもできそうですけれど・・。
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