ちろる

嘘をつく男のちろるのレビュー・感想・評価

嘘をつく男(1968年製作の映画)
3.7
林の中を逃げ惑う男
行き着くのはタイムスリップしたかのような古ぼけたイタリアの田舎町
酒場ではとある消えた英雄の噂話

既視感がある空気感だと思ったら、ベルナルド・ベルトリッチが1970年に発表した「暗殺のオペラ」と同じく、こちらもまたアルゼンチン出身の作家ホルヘ・ルイス・ボルヘスの短編「裏切り者と英雄のテーマ」から着想を得た作品だった。
同じ原案であっても監督の調理によって全く異なる解釈となり、アラン・ロブ=グリエならではの独特なラビリンス的風味を色濃く残す作品である。

オープニングから追われて銃で撃たれる主人公の男は、その次の瞬間に突然自己紹介を画面の向こうの私たちに向かって始める。
はじめはジャン・ロバンと名乗り、その後にボリス・ヴァリサとまた平然と名乗りを変えるところからタイトルの「嘘をつく男」とはこの語り部であることが容易に想像つく。
ひたすら語り続けるこの男が「嘘つき」であると分かった以上私たちはここから見せられる映像の一体何を信じればいいのか?

要領を全く得ない弁解のような彼の語りと、たどり着いた屋敷でゲームのように行われる女たち(消えた男の妻と妹とメイド)との戯れ。
トランティニャンのセクシーで軽薄な色気がこの怪し過ぎる男に意外なほどにマッチしており、また余計な言葉を一切発しない女たちとのコントラストがこの物語の不気味さを盛り立てます。

英雄と裏切り者という二つの人生を父と息子のかたちで描いたベルトリッチの「暗殺のオペラ」とは異なり、こちらは一人の人間に2つの仮面を被せ、妄想虚構の世界に私たちを誘っていくまさしくアラン・ロブ=グリエお得意の手法。
作品の面白さでは、私は断然「暗殺のオペラ」なのですが、(比べるのは野暮なのかも、、)アバンギャルドな映像やインタラクティヴな手法がたっぷりと詰まっているのと、女性たちのガーリーなドレスがめちゃくちゃ美しいので、アート系、ファッション系のお仕事をされてる人には是非観てほしい作品ではあります。
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