ロックウェルアイズ

リップヴァンウィンクルの花嫁のロックウェルアイズのレビュー・感想・評価

4.4
非常勤講師の皆川七海はSNSで知り合った同じく教師の鉄也と結婚する。
結婚式の身内の出席者が少なかった七海は怪しげな何でも屋の安室に代理出席の依頼をする。
鉄也と無事結婚生活を始めたものの何か満たされない七海。
夫の浮気を怪しみ、再び安室へ浮気調査を依頼するが、逆に鉄也とその母親から浮気の罪を着せられて家を追い出されてしまった。
行き場を失った彼女は、安室の紹介で誰も住まない屋敷で住み込みのメイドをすることになり……

本当の幸せって何なんだろうか。
お金?職業?結婚?愛?
どれも正しいが、どれも正しいとは言い切れない気がする。
幸せと定められたものは、幸せを掴むための過程や道具の一つであって、真の幸せは個々人によって異なる。
多様な価値観の現代で個が認められるようになってはいるが、未だに幸せはカタチを求められる。
3時間をかけて岩井俊二が一体何を伝えたかったのか全てを理解することはできないが、七海という1人の女性の人生を通して、幸せについて、そして人間の尊厳についてを描いたのではないかというのが個人的な解釈。

世の中に上手い話なんてのはない。
必ず裏や理由がある。
世の中は残酷だ。
それでいて優しさにも溢れている。
純粋に生きているあまり災難に遭いやすい七海、強いフリをして生きている危険なほどピュアな真白、感情を殺し俯瞰して仕事をこなす冷酷な安室。
人間の感情に触れ、感情を取り戻した安室の完全な敗北だった。(ただ正直、真白の母の元を訪れたあのシーンは、最初こそカタルシス的なものを感じたが、そのうちただただ滑稽にしか見えなくなってしまってなんだかよく意味が分からなかったが、、、)
人間は感情のある生き物だからこそ、喜び怒り哀しみ楽しむ。
感情の解放、これが「幸せとは?」の答えとして1番近いかもしれない。

女優・黒木華を堪能する3時間。
Coccoも綾野剛も素晴らしいけど、やっぱりこれは黒木華の映画。ずば抜けて良い。
観る前から黒木華と言ったら『リップヴァンウィンクルの花嫁』のイメージがあったが、彼女の魅力が創り上げたと言っても良い本作は、間違いなく彼女の代表作であろう。
それにしても、真白と七海のウエディングドレス姿は神々しかった。
2人のシーンはどこを切り取っても幸せで溢れている。
岩井俊二は本当に女子の二人組を描くのが上手い。

岩井俊二っぽそうで意外に岩井俊二っぽくない本作。
個人的にはそんなに泣けるようなシーンもなくあまり感動したとは思えない。
また観たいともあまり思わなかった。
だが、観て良かった。
一番の不満点は他のバージョンではCoccoの『コスモロジー』が流れたらしいので、せっかくなら劇場版でも流して欲しかった点。
ただこの作品が完全に好きになりきれないところも含めて、やはりどうしようもなく岩井俊二が好きだ。

SNSが普及し、人と人との繋がりが希薄な現代社会。
色んな人がいていい。
色んな世界があっていい。
それぞれが必死にそれぞれを生きている。
鑑賞後少しだけ優しくなれた気がした。