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黄金の河のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

黄金の河(1962年製作の映画)
3.5
No.458[昔懐かしき桃源郷] 70点

この時代のインド映画界を代表する監督であるガタクの代表作だが、サタジット・レイが偉大すぎて完全に忘れ去られているのが悲しいところ。本作品に限って言えばイシュヴァルやアブヒラムの業が無駄に深いとことかレイの"オプー三部作"と同じ匂いがする。こいつらは前世に何したらこんな悲惨な人生になるんだよ。

バングラデシュ難民の青年イシュヴァルとその幼い妹シータは、目の前で母親を連れ去られた少年アブヒラムを養子として迎え入れて仕事を得た郊外に引っ越す。やがて成長したシータとアブヒラムは愛し合うようになり、イシュヴァルは思い悩む。アブヒラムのカーストが自分やシータより低いと分かってしまったからだ。しかし、ふたりの愛は断ち切れずカルカッタに駆け落ちする。イシュヴァルは発狂する。

黄金の河とは勤め先の隣に流れるスバルナレーカー川のことで、シータの理想郷として彼女が子供に伝える川である。インド人にとって川がどれだけ重要なポジションにあるかはインド人でないので分からないが、あの汚い(と言うのも失礼だが)ガンジス川を"聖なる川"として崇めているわけだから重要なのだろう。加えて、元軍用飛行場が"陸の河"として登場し、水陸の両方から幼き頃に好きな人と過ごした理想郷であることを物語っている。

やがて、シータとアブヒラムの間に子供が産まれるが、アブヒラムが自動車事故を起こしてリンチされてしまい、シータは売春婦となってお金を稼ぐこととなる。時を同じくして旧友と人生最期の旅としてカルカッタにやって来たイシュヴァルは売春宿に入り、初めての客としてシータに出会う。シータは絶望してその場で自殺し、イシュヴァルにはシータの子供が残される。ふたりでイシュヴァルの家に戻ってくるシーンで漸く母親の言う"理想郷"にたどり着いた少年が弾けんばかりの笑顔を見せながらイシュヴァルを振り返る後ろに全てを包み込むように流れるスバルナレーカー川の美しさたるや。

ムカージーはこの時点で23歳なんだけど、それよりも「大都会」(1963年)と「チャルラータ」(1964年)はもっと若かったってことの方が驚き。でもその二作より若くみえるのは役柄のせいなのかしら。本作品でもその存在感は健在。ちなみに自殺シーンは中々衝撃的だったけど、イシュヴァルの悲しみのシーンは結構演劇的でノリきれず。

一応原題も"黄金の河"であるんだが、はやり理想郷という含意が大きいんだろう。
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