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『彼方から From Afar』に投稿された感想・評価

小

小の感想・評価

3.9
LBFF2016で鑑賞。2015年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞受賞、2017年のアカデミー賞外国語映画部門ベネズエラ代表作選出。

ベネズエラのカラカスで暮らす歯科技工士で50歳、裕福なアルマンド。道ばたで好みの男を見つけると、金を渡して部屋に誘い、後ろ向きに立たせ、上半身は裸、下半身はお尻が見えるくらいまでズボンを下げさせ鑑賞し、悦に浸る。相手には決して触ることはなく見つめるだけ。

ある日、アルマンドは不良グループのリーダー、エルデルを誘うが、ボコボコにされる。その後、復讐するどころか、タダでお金を渡すなど、エルデスに何かと便宜を図ったり、面倒をみたりする。エルデスは次第にアルマンドに心を開いていく。

階層格差の大きい2人だが、お互い父親に対し憎しみを抱いているという共通点がある。エルデルの父親はすでに亡くなっているが、アルマンドは父親と疎遠になっている。

アルマンドの心がまったく読めず、解釈が難しい映画。いろいろ調べた結果、テーマは、中年男性の同性愛ではなく、政治経済の混乱で、国民の階層間の緊張が高まっていることらしい。

そして、階層間の対立が強まっていても、お互いに“感情的に必要なこと”(ここでは多分、お互いに父親を憎むということ)を共有できれば、対立のない関係を構築できるということらしい。

ところで、何故、階層間の対立が強まっているのだろうか。簡単に調べただけだけど、多分、食料不足がのっぴきならない状況になっているからだろう。

そもそも食料を買うのも命がけらしい。スーパーは長蛇の列で買うのにとても時間がかかるけど、最近は数時間といわず、一晩中、治安の悪い街の中に泊まり込みで列に並ぶこともあるとか。

ここまで食料が不足しているのは、価格統制で主要食料の価格を安く設定していることが根本的な原因。価格統制は貧困層でも購入できるようにするための社会主義国家特有の政策だけど、隣国よりも圧倒的に安いから、買いだめして隣国で売って大儲けする人が後を絶たなくなり、本当に必要な人にまで十分にいきわたらない。

食料の販売価格は国内での生産コストよりも安く設定されているので、農家は成り立たず、ますます他国への依存を強める。

こうしたセルフ・ダンピングとも呼ばれる状況に陥っているにもかかわらず、何故、価格統制をやめないのかといえば、役人が腐敗し、国のためでなく自分の懐を潤すために仕事をしているから。

他国で食料を買い付ける際に役人は、市場価格より高値で買い、差額を業者と分け合う。さらに、食品の輸入のためなら実勢よりも大幅に安いドルレートが適用される(実勢と比べ少ない自国通貨額で多額のドルと換金できる)ので、申告した量の半分しか食料を輸入せず、残りの交換レート枠を自分の外貨獲得に利用するといった汚職も横行する。

ベネズエラは原油埋蔵量が世界一だけど、政府は食料関連で不足した外貨を石油輸出で穴埋めしていて、大半の国民は富の分配にあずかれない。結果、一部の役人などが私腹を肥やせば肥やすほど、大多数の国民の生活はどんどん苦しくなる。

犯罪が多発し、スーパーや食料運搬車の襲撃も日常茶飯事になっていることから考えても、貧困層が富裕層を許すはずがない。

と、ここまで知ると、エルデルのアルマンドに対する態度は彼の個性によるものと思っていたけど、「階層間の緊張の高まり」が背景にあるということが腑に落ちる。監督は、絶対にわかり合えないはずの2人がわかり合うことは、決して可能ではないことを描いてみせたのかったのかもしれない。

同性愛は、ベネズエラ国民、ベネズエラを良く知っている人なら、きっと思うところがあるはずのこの映画を、多くの人に観てもらうための手段だったのではないか、という気がする。

しかしながら、ベネズエラのことを全く知らなかった自分は、「アルマンドは同性愛者ではなく、周到に計画を練ったうえでエルデルを利用したのではないか。きっとそうに違いない」などと、観終わった後は思っていた。

ラストが意味深長だったせいでもあるけど、今にして思えばあのラストは「さあ現実に戻って考えよう」ということだったのかもしれない。でもよくわからないから、一般公開されて、誰か解説してくれないかしら。

参考にしたサイト
https://venezuelainjapanese.com/
http://www.cinematoday.jp/page/N0083626
いち麦

いち麦の感想・評価

4.0
TIL&GFF2016。誰かに感情移入することなく行動観察に徹した様なカメラワークが圧巻。その分、物語を追うための手掛かりは見落としそうな程少なかった。アルマンドの性的嗜好は灰汁の強いキャラをそのまま表現している様だ。
終盤の二人の朝食シーンとその後のパン屋前のシーンも淡々と写し出されるが何ともいじらしい。アルマンドとの接触を通して大きく変容したエルデルを待ち構えていた余りに酷い陥穽が哀し過ぎる。ラストも潔く見事。
一人の男の病んだ心の深淵を見てしまったようで震えた。
街角で少年たちを拾っても触れることは無い。同性愛者であるだろうに、求めながらも自己否定している男の葛藤。街の不良少年が、手に入らないからこそ執着しているようだ。
そんな男が、拒絶され思う通りにならない、ある不良少年に魅了される。男の少年への手厚い扱いからの信頼関係、そして少年への父性への焦がれが根にあるのか、少年の同性への関心は男によって目覚めさせられる。だがこの関係はもどかしいなんてものではなく、悲劇性しか含んでいない。
それは哀れな男の、実の父親との関係に起因してるのかもしれないが、そこまでの事情は描かれていない。実父への憎しみが見えるだけなのだが、男が父親を尾行するその描写は、彼が町で少年を追う描写と重なり合いもする。
男が心を許し、性的に誘惑するかのような少年との美しい場面や、同性愛者として家族や仲間に疎外されてしまう少年の痛ましいまでの愛情があるのだが、
完結した後で無表情にすべてをクリアにしてしまう男の冷め切った心は、永遠に手に入らないものを求める哀しい病に罹っているのか。それとも今までの自分を消し去りたいのか。おそらく前者だと思うが、痛ましさしかない。

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