JunIwaoka

家族の映画のJunIwaokaのレビュー・感想・評価

家族の映画(2015年製作の映画)
4.7
2015.10.30 @ 28th TIFF

今年の東京国際映画祭も最後の最後まで素晴らしい作品に出会うことができた。監督自らファミリームービーにジャンル分けすることができない"家族の映画"と皮肉るだけあって、日常的に起こり得る出来事で、ある家族がどうなってしまうのか予想もつかない展開に手に汗を握りながら見守る。長男(末っ子)の初恋、若気の至り、親の責任、不在による不安、自暴自棄、出生の秘密、そして愛犬。どれもこれも共感せざる得ない要素がふんだんに盛り込まれていて、一刻一刻状況が展開していくことに戸惑いながらも目が離せなくなる。どの国のどの家庭も複雑な問題を当たり前のように抱えているものだから、アイロニカルに描きながらそれでも他人の家族の絆みたいなものを信じたいと思わせることがすごい。。
犬映画という感想を多く見かけたけれど、あまりにもうまく家族の絆のシンボリックな存在として描かれていたから、犬が奮闘する映画にはまったく思えなかったな。途中で終わらせた方がよかったのにって思ったけれど、ありえないと思ったシーンは元になった新聞の記事があって、監督がそこから着想してこの映画を撮ったと話していて言葉もない。そして最後の最後で見せたあの表情によって全て救われた気がして、胸を撫で下ろすと同時に涙が溢れた。

この映画のリアルさが徹底しているのはキャスティングが絶妙で、とても自然体でいるから実在する家族じゃないかと思うほど説得力がある。なかでも姉のアナが年相応の愛嬌と先の見えない不安をうまく抱えて演じていて、両親不在の家で奔放な友人をどこか羨ましく思いながらも、羽目を外すことが出来ない責任感があって、励ますように観ていた。僕の姉もアナみたいだったらよかったのになーって心底思った。
仲睦まじく裕福で他人が羨む家族であったとしても、些細なことで築いてきた家庭は簡単に崩れてしまう。それを皮肉たっぷりで描くんだけど、それでもみんなが元の通り一緒にいるべきだって切実に願う気持ちに大切なことを気づかせてくれたように思う。途中なんて酷い映画だよーと思ったこともあったけれど、今年の東京国際映画祭を締めくくるのにぴったりなとっても素晴らしい作品でした。
JunIwaoka

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