近本光司

チリの闘いの近本光司のレビュー・感想・評価

チリの闘い(1978年製作の映画)
3.5
わたしたちはすでに、1973年9月11日のクーデタによって悲劇的な終焉を迎えたアジェンデ政権のあとに訪れた、さらなる悲劇の顛末を知っている。それだけに第三部で民衆の力(poder popular)を信じる労働者たちの顔の映像はかなり胸に堪えるものがある。263分に及ぶ緊張感の張り詰めた映像を観てまず気がつくのは、さまざまな党派がぶつかりあうチリ大統領選挙も、国民生活のあらゆる場面に影響を及ぼしている経済制裁も、国会の爆撃という衝撃的な映像をもって果たされるクーデタも、すべてアメリカ合衆国が裏で手を引いていたにもかかわらず、その悪役は一切画面には映らないということだ。ベトナムや朝鮮半島と同様に1970年代のチリにおける政治的な混乱はアメリカ合衆国とソビエト連邦のあいだの冷戦体制に起因しているはずだが、米兵もソ連兵も画面には登場せず、チリ人がチリ人を殺めるという代理戦争を強いられてしまっている。歴史が善いほうへ向かうのは長い歳月と努力を要するにもかかわらず、悪いほうへと向かうのは、シーシュポスの岩が山を転がっていくようにあまりに一瞬である。ウクライナ情勢を見て明日はわが身といっているあいだに取り返しがつかなくなるかもしれない。Compañero、われわれはいつだってそのことを肝に銘じておかなければならないのだ。