Hiroki

ロブスターのHirokiのレビュー・感想・評価

ロブスター(2015年製作の映画)
4.0
2023のベネチアが無事に終幕したので公式のアワードから。

【金獅子賞】ヨルゴス・ランティモス『Poor Things』
【銀獅子審査員グランプリ】濱口竜介『悪は存在しない』
【銀獅子最優秀監督賞】マッテオ・ガローネ『Io Capitano』
【ボルピ杯最優秀女優賞】ケイリー・スピーニー(ソフィア・コッポラ『Priscilla』)
【ボルピ杯最優秀男優賞】ピーター・サースガード(ミシェル・フランコ『Memory』)
【最優秀脚本賞】パブロ・ラライン&ギレルモ・カルデロン(パブロ・ラライン『El Conde』)
【審査員特別賞】アグニエシュカ・ホランド『Zielona Granica (The Green Border)』
【マルチェロ・マエストロヤンニ(新人俳優賞)】セイドゥ・サール『Inside the Yellow Cocoon Shell』(マッテオ・ガローネ『Io Capitano』)

批評家に好評だったうちベルトラン・ボネロやデヴィッド・フィンチャーは賞にかからず、ヨルゴス・ランティモスと濱口竜介はベスト2に。
両極端な結果になりました。
濱口竜介はこれで3大映画祭すべてでアワード受賞!
そろそろ最高賞が欲しい所かな。
まーでもアワードで作品の評価が変わるわけではないですが。
私はもちろん全部観ます!
でもボネロの新作。ちゃんと日本で劇場公開されるよね...


ヨルゴス・ランティモスの作品て何度も観たくなる。
実際何度も何度も観ている。
前に『聖なる鹿殺し』をあまり映画を観ない友人とたまたま観る機会があってその話をしたら、
「大丈夫?いつでも話聞くよ。」
と慰められました。
まーそーいうクリエイターですよね。

ヨルゴス・ランティモスはいつも日常にとあるルールを科す事で、ミステリーやSFの世界観を作り出す。
今回も“結婚しないと動物に変えられる”というルールを適用する事でこんなにも奇妙で不気味な世界を作り出している。
そして彼の映画は素直に受け取るよりも何を意味しているのか?(何の比喩なのか?)を考えてみるとより楽しめると思う。

“家族がいなければ人間ではいられない世界”はやはり旧世界=家父長制に基づくこれまでの社会を、
“恋愛や無闇な接触は禁じられる個人の世界”は新世界=個人主義に基づくこれからの社会を基本的には現しているのだろう。
しかし日本政府が貫いて離そうとしない“家族主義”は少し置いておいても、コロナ禍初期を頃を思い出して欲しい。
世界中で家族(やそれに従ずる関係)以外との接触や行動を禁止されていた。家族という構成体である事自体が正義であるかのように感じられた。
また反対に自由を謳うリベラルと呼ばれる側にも自由ではあるが自分たちと違う思想であれば叩き潰すというダブルスタンダードが存在し、ある意味では体制側よりも恐ろしい。(ウォール街占拠運動とBLMを見ていればよくわかる...)

中盤くらいまで観ていてると、旧体制や家父長制へのアンチテーゼ的な内容だと感じるんですよね。
もしくはそれを守るために恋愛に躍起になる大人たちを嘲笑しているような。
ただ中盤以降そうではない事がわかる。
ヨルゴス・ランティモスは新世界の事をも嘲笑する。
1人でイヤフォンで音楽を聴きながら踊ったり、わざわざ親にはちゃんと体制に組しているように思わせるように演技したりしている人々を冷笑している。
「いやお前らも変わらんから」
という声が聞こえてきそうな...
基本、彼の作品はコメディなのでこういう細かい所で笑えると相性が良いのかなーと。

そしてやはりラスト。
得意の静寂と長回しで私たち観客は放置される。
もちろん答えなんて与えてくれません。
「自分で考えろよ!動物になるぞ!」
と言われているような。
ただ静寂の中にも静かーな波の音が聞こえ、そしてタイトルを考えるとその結末は...

キャストはかなりオールスターなんだけどやはり主演のコリン・ファレル!
まー今ハリウッドで1番怪演という言葉が似合う男ではないでしょうか。
彼の場合は巻き込まれていく役も自ら巻き起こす役も、さらにいうとなんでもない普通の役もできるのが凄い。
あとはレア・セドゥ!めちゃくちゃかっこいい!最後はあれですが...

そして金獅子賞作品『Poor Things』(『哀れなるものたち』)は前作から引き続きエマ・ストーンが主演(今回は製作も兼任)のとんでもない怪作らしいです。
2024の1月公開という事が楽しみに待ちたいと思います!

2023-55
Hiroki

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