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BOL ~声をあげる~のBaadのレビュー・感想・評価

BOL ~声をあげる~(2011年製作の映画)
4.5
「娘よ」を見た後で、ショエーブ・マンスール監督のこの映画がインドの某サイトで配信されていることを思いだし、見てみました。

現在のボリウッド映画に比べて若干テンポが緩めで長いですが、ドラマ性が高く面白い映画でした。

また、インド映画でよく舞台になるパキスタンのラホールが舞台ですが、当然ながらパキスタン映画なので、街の風景がたっぷり見られるのもよかったです。主人公の一家がインドからの移民ということで、ボリウッド映画でいまひとつわかりにくい北インドとパキスタンの関係もとてもわかりやすく描かれているので、ボリウッドファンの方は機会があれば見ると良いと思います。

この物語の主人公の一家の父親はハキームと呼ばれる伝統的な薬屋を営んでおり、宗教的な教養も深く、祖父の代にインドのデリーからパキスタンのカラチに移住する途中、故郷のデリーと似たラホールの街が気に入り住み着いた。住んでいる家の広さ、隣人一家が医者であることなどから、移住当時は豊かだったと思われる。

その一家の長女が殺人罪で処刑される直前に、「私は人を殺したが、犯罪は犯していない」とその成り行きをマスコミの前で話すところから物語が始まります。

隣人の一家は時代に合った生活をしており、父親以外の一家とも仲がよく、次女と隣家の息子は恋仲なのですが、父親は宗派が違うので快く思っていません。(一家はスンニー派、隣家はシーア派です)
後継の男の子が欲しいのに女の子しか生まれないので娘7人の大家族となり最後に生まれた息子も性同一性障害、ということで、伝統薬が売れなくなったこともあり、一家は貧しくなり、娘たちは中等教育も受けずに、父の方針で働きに出ることも禁じられています。

父親の頑固さと子沢山による生活苦のため、一家はさまざまなトラブルに巻き込まれるのですが、それが全て、ちゃんと対応すればなんとかなったであろうような問題です。

ただ、心根が腐りきった人でないこともちゃんと描かれています。

興味深かったのは、困った時に父親がする占いみたいなこと。詩集やコーランなどを開き、ランダムに目についたフレーズを参考に行動を決めるのですが、それってやらないで家族と率直に相談した方がいいんじゃないかと思いました。
いわば、本でやる占いが現在のSNSでの集団的な思い込みみたいに偏った行動を後押しすることになっているのですね。

経済的に窮地に追いやられた父親は娼館の一家にコーランとウルドゥー語を教えることになるのですが、こういう生業のために文学的教養が必要なのも割と万国共通?娼婦であるその家の娘はボリウッドの伝説の女優ミーナ・クマーリを崇拝しており、「この仕事をするならラクナウ(インドの古都)で店開くのが素敵よね」とのたまわったりもしますが、一般公開してヒットした映画らしく、その辺の描写も上品でした。

この映画は公開時パキスタン映画の興行収入を塗り替えるような大ヒットだったそうですが、国内では賛否両論で、安全のため監督は近くからの写真は撮影させないとか。

映画の中でも、閉じ込められている娘たちの世界と隣の家との対照が鮮やかでした。

(Eros Now配信・英語字幕)
(家長の頑固さは不幸を呼び寄せる 2021/2/16記)
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