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Kabul Express(原題)のBaadのレビュー・感想・評価

Kabul Express(原題)(2006年製作の映画)
4.3
911の後、アメリカの空爆がはじまり、タリバンを支援していたパキスタンがアメリカに協力をすることを余儀なくされたという時代の転換点、日本は当時はタリバン政府と多少はは交流があった数少ない国の一つだったらしく、国連難民弁務官事務所の緒方さんやペシャーワル会の中村さんの映像がしばしばテレビで流されていたので6年間アフガニスタンに入れなかったと言われてもピンとこないのだが、この映画によると世界各国の報道機関は6年ぶりに入れるということで我先におしかけたらしい。

その中のインド人の新人記者とカメラマンの二人が帰国したいパキスタン人のタリバン兵に捕えられ、やがてアメリカ人の戦場慣れしている婦人記者ともひょんなことで合流して、ガイド兼ドライバーのアフガン人と共にパキスタン国境を目指した二日間の物語。

『パターン』上映を機に、ジム役のジョン・エイブラハムの初期の主演作ということで積んであった輸入DVDを見ました。制作はおなじYRFですが、ドキュメンタリー風の小規模の劇映画です。

監督のカビール・カーンは『タイガー 伝説のスパイ』や『バジュランギおじさんと、小さな迷子』などで有名ですが、これが商業映画デビュー作。

物語に設定された時期より4年後に実際にアフガニスタンで撮影したとのことですが、警備の都合上か国境付近ではなくカーブル周辺で撮影したとのことなので、国内ロケの映画と比べても特に風景がアフガニスタンらしく撮れているとも思えないのですが、戦災の跡やアフガニスタンやパキスタンの役者さんが参加している点では臨場感があるとはいえるかも。

主演の記者役はジョン・エイブラハム、カメラマン役はアルシャド・ワールシーで特にジョンはわかい!二人とも売れ始めた時期。

アメリカ人記者役はインド映画で活躍しているアメリカ人の女優さんで、無難に役をこなしていますが、この人は戦場慣れしているという設定で、演技もそんな感じでオタオタしている二人を尻目にしっかり取材していたので、インドあるいはパキスタン系アメリカ人の設定でベテラン女優さん使った方が面白くなったのでは?と思いました。

パキスタンタリバン兵はパキスタンの役者さんで、この人は名優っぽいんですが、それが帰って映画をお話っぽくしてしまっているようなかんじがしました。

YRFとしては紛争地でヒューマンコメディーを撮って一石を投じたかったのでしょうが、他に切り口があったのでは?とちょっとおもいました。

面白かったのは新人二人組のオタオタぶりと成長、パキスタンの立場と思惑。突然現れるロバの当たり屋、最初の取材先のひとつがモスクでのスーフィーソングというのがいかにもYRFだったこと、あたりでしょうか?

あとアフガニスタンが舞台の映画にはよく出てくるポロの原型とも言われる競技ブズカシュですが、うまく物語に取り込んでいて感心しました。

アフガニスタンの言語はダリー語ですが、この作品はインド映画でパキスタン人タリバン兵はウルドゥー語を話す設定なので、使われている主な言語はウルドゥー、ヒンディーがメインで、英語とダリー(アフガニスタンのペルシャ語)がそれに次いでいて、ダリー語にはもとから英語字幕がついているので字幕が二重になっていました。

私はうっかり英語wikiや他のサイトで結末まで読んでからみたのですが、ラストを知っていると著しくサスペンスが損なわれますので日本語wiki程度の予備知識で見るのがいいと思います。

この時代ならではの甘さと言っていいのか、アフガンニスタン政府の協力全面的に得ての撮影であったものの、政府の中枢にいる構成員が多いハザラ人の追い剥ぎを登場させたり、インド人には馴染みのあるパシュトゥーン人(パターン人)が主な構成員のタリバンに軍の命令で入り込み支援しているパシュトゥーン系のパキスタン人軍人の人間性を描いている上、タリバンも女性を尊重しない点以外は悪いやつじゃないと登場人物が言ったりしているところから、完成後はアフガニスタンでは上映できなかったそうです。
(この辺は面白いことにアフガン戦争開始当時の日本人の有識者の言説とほぼ同じでした。)

付記:「カンダハル突破せよ!」を見てこの映画のレベルの高さを実感しましたので評価を上げます。(ネタバレくらったのでそれでもスコア低めですが、ネタバレ踏んでなかったら4.5でもよかったかも)
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