ひこくろ

ある天文学者の恋文のひこくろのレビュー・感想・評価

ある天文学者の恋文(2016年製作の映画)
4.3
持っている恋愛観次第で、見方が真っ二つに分かれてしまうような気がした。

天文学者のエドは、若き恋人のことを思い、彼の死後にもメッセージが届くように手配する。
恋人のエイミーがいつどんなことをするかを想像し、そのシチュエーションに会ったものを彼女が受け取れるようにだ。
それは、エイミーにとっては、死後も彼と付き合い続けられるかのように錯覚できることに他ならない。
でも、本当にそれは美しく温かく幸せなことなのだろうか。

死んだ相手からいつまでもずっとメッセージが届く。
僕はそこにとてつもなく恐ろしいものを感じてしまった。
死後も自分を束縛し続ける恋人。そのためにあらゆる労力を払った恋人。
深い愛情ゆえと見れば美しい話だが、変態的な執着性と見ればホラーだ。
だって、それが届く限り、彼女にとって彼は死んだことにもならず、次に進むこともできないのだ。

エイミーは途中でエドの発言に怒りを爆発させ、別れのメッセージを送ってしまう。
それきり、彼からの連絡は一切なくなる。
しかし、それすらも彼が想定していた「彼女の行動」であるとわかった時には、背筋が凍るような思いがした。

突き詰めて考えれば、どんな恋愛だって異常性を持っているものだ。
だからこそ美しいのだろうし、だからこそ怖いのだろう。

きっとこういう恋愛を受け止められる人もいるんだと思う。
そういう人にとってはたまらなくせつなく美しい映画に見えるだろう。
でも、僕は無理だった。
人間の異常性を突きつけられているかのようで、最初から最後まで怖かった。
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