akrutm

パリ3区の遺産相続人のakrutmのレビュー・感想・評価

パリ3区の遺産相続人(2014年製作の映画)
3.7
ヴィアジェというフランス独特の不動産売買制度を背景として、父親からパリの高級アパートメントを遺産相続したアメリカの男性や、そこに住んでいる老婦人やその娘の苦悩や想いを描いた、イスラエル・ホロヴィッツ監督の恋愛ドラマ映画。『いちご白書』の脚本で有名な脚本家であるホロヴィッツ監督が舞台劇として書いた同名劇を自ら映画化した、ほぼ初めての監督作品である。

元々は舞台劇であることからもわかるように、主要人物3人の会話が中心となる会話劇と言えるが、その3人の演技が見事であるとともに、脚本がしっかりと作り込まれているので、映画としての出来は非常に高い。前半はヴィアジェで売買されたことを知らなかった男性が、自分の思惑が外れて困ってしまうというヴィアジェにまつわるストーリーが中心であるが、そのうちに男性の父親や老婦人の秘密(一言で言うと、なぜ冷たかった父親がこのアパートメントを男性に遺したのか)が明らかになっていくという展開のおかげで、そのまま映画に引き込まれて楽しむことができた。でも、ハリウッド的な結末は個人的にはあまり好きではないけど。

・男性マティアスが秘密を知ったときの反応がちょっと大げさな気がした。いい年した(57歳の)おっさんが、そんなことで飲んだくれるほどショックを受けるなよ。もちろん「そんなこと」は重大なことなんだけど、もっと若いころにわかっているはずだろ。

・個人的には、老婦人マティルドの生き方は否定されるべきものではないと思う。

・57歳のマティアスを演じたケヴィン・クラインが若い!実際には当時60歳後半(70歳近く)だと思うが、まったくそんな感じには見えない。一方で92歳の老婦人を演じたマギー・スミスは実際には80歳くらい。

・ヴィアジェという制度を初めて知ったが、高齢者にとっては自分が住んでいる動産を年金のように使えるので、とても良い制度だと思う。一方で、買い手からすると、住んでいる高齢者が早く亡くなったほうが得するという博打的な投資になる点が面白い。こういう制度が受け入れられるという、ある意味でドライな国民性のせいかもしれない。

・ヴィアジェが損になる例として、ジャンヌ・カルマンという人類で最も長生きをした実在したフランス人女性の話が出てくる。実は、ジャンヌの娘が母親と入れ替わっていたという疑いもあるそう。
akrutm

akrutm