YAJ

黄金のアデーレ 名画の帰還のYAJのネタバレレビュー・内容・結末

3.8

このレビューはネタバレを含みます

【絵は誰のもの】

 アメリカ人女性がオーストリア政府を相手取り、大戦中、ナチスに略奪された自分の伯母を描いたクリムトの名画を返して欲しいと訴える。実話を元にした迫力、歴史の重みが巧みに描かれていてとても良かった。

 この手の、現在の視点から過去を振り返るタイプの作品が映画に関わらず近頃多いと感じるのは気のせい?単に自分が齢を取りこの手の作品に目が行く、あるいは印象に残るようになっただけなのか。その辺りの考察は面白くもあり恐ろしくもあり。




(ネタバレ含む)



久しぶりに涙ものの作品でした。
脚本がいい。主人公の女性を演じたヘレン・ミレンにとてもマッチした知的でシニカルで、時にユーモラスな台詞が随所に。
キャストとして嬉しかったのはダニエル・ブリュール。『グッバイ・レーニン!』以来ですが、ひと目で彼と分かった。

 画家、絵画に関する作品3連続(「Foujita」「放浪の画家ピロスマニ」とこれ)だったけど、少年ジャンプ的な「努力・友情・勝利」が約束されている作品は明快で気楽に観れる。それでいて「サラの鍵」を髣髴させるる歴史の謎解き、忠実に再現された当時のナチスとウィーン市民の関係、緊迫感ある逃亡劇、そして最後の回想シーンは「タイタニック」が思い出される。ラストに向け滂沱だった。 軽重のバランスがとても良い作品。

 ひとつ残念なのは、絵が、祖国を離れてしまうこと。映画のストーリーの流れ的にそれはどうなの?と思ってしまった。

 強硬に裁判では反対していたオーストリア政府が、オーストリア人調停員による調停の場で、オーストリア人としての誇りを持って所有者への返還の判断を下す。それを受け、主人公は喜びはするが、自分は祖国を捨てて家族を残し亡命してしまったと、両親との別れのシーンを思い出し涙する。
 となると、もしこのストーリーが史実でなかったら、”伯母アデーレ”は祖国に残されるべきだったのではないかと思った。
 しかも悪いことに現実は、作品はオークションにかけられ高額で落札されて”私設”の美術館に展示されることに。

 実話であることを示すためにラストに写される実際の人物たちと、コトの顛末は、作品としては蛇足だったかもしれない。☆ひとつ減点なのだ。
YAJ

YAJ