TnT

陸地にてのTnTのレビュー・感想・評価

陸地にて(1944年製作の映画)
4.5
前作「午後の網目」が海と死のイメージで終わったなら、今作品は海辺から生のイメージで始まる。前作と併用してみると尚面白い。今作品はまたも夢幻性あふれるイメージで溢れているがタイトルが「陸地にて」なだけあり、生の謳歌が伺える。

 マヤ・デレンの特徴とも言える多種多様な映像効果を今作品でも多く伺える。前半の海辺に打ち寄せる波が逆再生で海へと戻っていく映像も、カラクリは単純だがイメージは強烈だ。また動作つなぎによる大胆な場面転換も映像技術の隙をついたなという印象。夢やイメージというのは一見複雑だが、そのカラクリの単純さに彼女は気づいている。

 また生の謳歌が伺えるのは、マヤ・デレン自身が今作品でも出演し、その肉体を露わにすることからもわかる。前作は行動の反復が多く、それらの規範の中に封じ込められた身体に肉体性は関係がなかった。ところが今作品のマヤ・デレンの姿はあえて自身の肉体を晒すかのように露出が多い。そして前作に比べて彼女はこの夢の世界を縦横無尽に進んでいる。チェスを目線の動きだけで操るところからも、この夢は彼女の思うままでもある。また、宴会の席で彼女がテーブルの上を這いずるところもまさに自由である。彼女の自由を謳歌する姿はどこかチャーミングであり、そこも魅力的だ。なにか自身で動きつつもその状況を理解できていないようなキョトンとした表情が面白い。

 前作が非常に反復による内省を含んでいたことに対し、こちらは非常に直線的だ。行ったっきりラストシーンまで反復はない。これもまた非常に生き生きとした刺激を感じるというか、新鮮だ。しかし、ラストになると彼女は元の道を戻ってしまう。そしてそこで様々なフェーズでのマヤ・デレンたちが現れ、走り去るもう一人の自分を見つめる。あれ、いつから彼女が一人だと錯覚していたのだろうか。シーンごとに別の人間へと彼女は分離していたのだ。先へ進むことをためらい、来た道を戻ってしまうのは、いつも海がラストシーンにくる自身の作品への言及、または自虐とも言えなくもないだろう。それ故かこのラストはコメディ映画のようなおかしさがある。

 シュールだが、だからといって暗くない非常に面白い作品。ジョン・ケージもちょい出演してるのがまた可笑しい。
TnT

TnT