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グランド・セントラルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

グランド・セントラル(2013年製作の映画)
3.8
 仕事を転々とし、原子力発電所で働き始めたギャリー(タハール・ラヒム)。放射性物質にさらされた、原子炉に最も近いこの場所で、同僚のトニの恋人キャロル(レア・セドゥ)と恋に落ちる。そしてふたりの不倫関係は、恐ろしくも悲しい現実で終わろうとしている。冒頭、列車の中で財布をすられる主人公の一連の様子を短いカッティングでリズミカルに描いたタイトルバックが秀逸である。一連の動きを終えたところで、黒バックに赤字でタイトルが出て来るのだが、この短い数分の間にも、ズロトヴスキの溢れる才能が伺える。この人のアクションが一度観てみたい気さえする。主人公は最も危険でリスクの高い原発作業員という職業を選ぶ。主人公の過去はここでは明らかにされていないが、相当切羽詰まった様子はタイトルバックからも窺い知ることが出来る。前半は主人公が原発作業員になるまでと原発作業員の仕事の様子が丁寧に描かれる。彼らの仕事は常に線量計が欠かせないことと、作業員達は一つのチームで活動し、連帯責任を負うということが、何気ない行動の中からしっかりと明示されていく。

 原発に向かう前に、主人公がペットボトルの水を呑み干してしまう場面に顕著なのだが、彼らの作業が個人としてではなく、常にチームとしての尊厳に関わって来ることを、監督はじっくりと丁寧に描く。30代前半にして実に肝が座っている。主人公は町の酒場のロデオ・ゲームに勝ち、チームに加えられる。原発で働くということは、昼夜を共にしなければならない。夕食を食べる中で、トニの恋人キャロル(レア・セドゥ)と運命的な出会いをする。そこでは被爆した時の例を冗談めかして語るセドゥだったが、次に会った時は、2人は隣り合う車内で目も合わせようとしないのである。その後部座席の様子を開け放たれた車の窓からじっくり撮った場面が素晴らしい。2人の恋に落ちる絶妙な距離感を、ズロトヴスキはあえて台詞ではなく、演技のみで表現させる。中盤から後半にかけてはこの主人公の被爆へのどうしようもない恐怖が描かれる。それと共にセドゥの方も、お腹に赤ん坊がいることがわかり、その事実を無精子症のトニにどう伝えれば良いのか思い悩む。愛し合う2人がそれぞれに葛藤する様子を、圧倒的な画力を持って描き切る。クライマックスの結婚式の場面は、彼らが話していることは我々には一切聞こえてこない。それはタハール・ラヒムのレア・セドゥに対する絶望的な心の距離として描写されているかのようである。
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