YAJ

あんのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

あん(2015年製作の映画)
4.8

このレビューはネタバレを含みます

【タイミング】

 2月の樹木希林特集@下高井戸シネマにて鑑賞。実に沁みる作品でした。希林さん作品は、近年『人生フルーツ』(ナレーション)、『万引き家族』、そして前日に『日日是好日』『モリのいる場所』と観てきて、本作で5作品目。
 今年公開予定の『エリカ38』(浅田美代子主演)を見れば、晩年の主要映画作品はほぼほぼ網羅かな?
 最晩年に怒涛の出演ラッシュ。最期の最期まで女優業を全うでき幸せだったのかなぁと故人の人生に思いを馳せる年になりそう。

 本作『あん』も、当時(2015)は、あんこ作りを題材にした町興し的な、映画『UDON』(2006本広克行監督) のような作品かと勝手に思っていた(海外に居て観れるタイミングでもなかったし)。

 また、監督が河瀨直美という点で、『殯(もがり)の森』(2007)で痛い目を見てるので(作家性の強い苦手なタイプの作品)、希林さん特集じゃなきゃ観なかったかもしれない。

 でも・・・、良かったなあ、不思議と。

 作品って、いつどんなタイミング、どんな状態で鑑賞するのかって、やはり大事だなと改めて思った。



(ネタばれ、含む)



 まず意外だったのが、ハンセン病の問題が背景にあったこと。あんこ作りの楽しい町興し物語ではなく、重いテーマが隠されていた(驚)
 らい予防法が廃止されたのは1996年。そのころ話題になったのは朧気ながら覚えている。20年も前に話題になった社会性の高い病気を取り扱うのは何故!? 今また何か問題になっていたっけ?と、あやふやなままの鑑賞だった。

 らい予防法廃止の翌年、宮崎駿が『もののけ姫』のエボシ様のエピソードで取り扱ったタイミングの良さを思うと、モヤモヤしたものが残る。原作(ドリアン助川)の着想、執筆、上梓⇒ その後の映画化、そんなタイムラグだけのことかもしれないけど。
 また、原作はどれほどの濃度でハンセン病を扱った作品だったのか?! 読んでいないので、その程はうかがい知れない。純文学的作品を創りたい監督の思惑と、社会性のバランス、匙加減はいかほどのものだったか。
 周囲の反応(店のオーナー浅田美代子や一般客の態度)はむしろやや時代遅れだったし、ハンセン病そのものに関しては、どちらかといえば、オブラートに包んだ描き方のように感じた。

 あと引っかかったのは、内田伽羅の大根っぷり! ある意味、大物なのかもしれないけど(笑)、希林さんの孫娘と事前に知ってて良かったよ。おばあちゃんと生前に共演できて、いい想い出になったね、と生ぬるい眼差しで鑑賞できました。

 公開のタイミングで観てたら、もっといろいろ気になってあーだこーだと文句も言ったかもしれない。
 最後に徳江(=希林さん)からのメッセージがカセットテープに残された声という陳腐さもいただいけないけど(草太兄ちゃんか!@『北の国から』)、今回は希林さんの存在感で全てをやさしく包み込んでもらえて、ただただ、じんわりと鑑賞させてもらいました。
 永瀬正敏も浅田美代子もいい演技だった!!

 どの作品を見ても樹木希林は樹木希林だという向きもあろうと思うが、前日から3作連続して鑑賞してみて、それぞれ手触りの違う人物を巧みに演じ分けてた、その技量にただただ感服。長年のキャリアの凄みのようなものまで感じた。

 追悼特集。こんなミーハーな鑑賞方法も、たまには悪くはないものです。
YAJ

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