イスケ

キャロルのイスケのネタバレレビュー・内容・結末

キャロル(2015年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

ルーニー・マーラのビジュアルで列車セットが好きとか凄く良い。
帽子がまた可愛くて似合ってるのよ。

もうね、所作や視線の揺れでふたりの心の揺らぎまで表現されていて素晴らしかった。
初めての食事の際のテレーズの落ち着かない視線も良かったし、ラストシーンでキャロルが目を逸らさずに微かに瞳に輝きを帯びながらテレーズを見つめるのも良かった。

スムーズにふたりが会うようになったことからも、手袋を忘れて帰ったのも恐らく意図的だったのでしょう。
どんなナンパ師だよって感じだけどw、その行為にすら品格を漂わせているケイト・ブランシェットの存在感たるや。

言葉、行動、ふたりの間に流れる空気。それらが平等に並んでいる。
大切なものが詰まっている120分間でしたね。


「(写真家になるのが)あなたの夢なの?」
「そうです。私に才能があるなら。」
「それは他人が教えてくれる。あなたは努力し続ければ良い。正しいと思うことをやり、流れに任せて。」

このキャロルの言葉が初見から好きで。

価値を決めるのは他人だけど、あなたができるのは正しいと思う努力をし続けること。それ以上でも以下でもない。そんなニュアンス。
しかし、これはただの「いい言葉」に留まることはなく、しっかりふたりの結末へと影響していく。


キャロルは、夫であるハージの家族との息の詰まる日々を過ごしていく中で、街中でしばらく会っていなかったテレーズを見つけ、自分の中の偽りなき彼女への想いを再確認するわけです。そして、娘の親権を放棄するという行動に出る。

この決断は賛否両論あるでしょうが、キャロルが何事も放棄をすることなく、娘との面会の権利を要求し、テレーズに手紙を届けに行くという行動に出たことは、まさに自身の言葉通り、「自分が正しいと思うこと」をしようとしているように見えました。

もちろん子供を生み育てるならば、自分のこと以上に大切にすべきですよ。
でも、自分の中に生まれてしまった感情を「封印しない」という権利は残されているはず。

特に同性愛者であるキャロルにとっては、「離婚しない」という選択肢は、一生自分を偽って生きていくことを受け入れることになるのです。

彼女は、自分の感情と向き合いながら、娘のことも大切に思っていて、彼女なりの最善を尽くそうとしたのは見て取れました。
キャロルの一連の行動は、感情的に非常に理解できるのですよね。


また、この親権についての聴聞会が、テレーズに再会するよりも前の出来事であることも重要です。
「会える保証もない」のに親権を放棄したわけですから。

これぞ、「(結果は)他人が教えてくれる。自分は正しいと思う努力をすれば良い。」という考えに基づく行動ですよね。
相手の答えより先に、自分なりの正しさで行動をする潔さがそこに見えたからこそ、キャロルに好感を持てたのかもしれません。


キャロルからの手紙を読み、約束の場所にテレーズは現れ、冒頭のシーンに戻ります。この構成がまた良い。

夢を叶えるための入口まで辿り着いていたテレーズは、それまでとは違い、少しだけ自分の意思を持ち始めているようでもありました。
当然、彼女なりにキャロルに対し、思うところはたくさんあったのでしょう。彼女の元に戻りたいのに簡単には戻らない。戻れない。細やかな駆け引き。

でも、そこでキャロルはテレーズの意思を尊重するんですよね。(これも駆け引きだった可能性はあるけどw)
関係を持っていた頃は、明らかに上下関係もあったように見えましたが、言いくるめようとしてこないキャロルに、対等な大人の女性として認めてもらえた感覚もあったんじゃないかなと察します。
キャロルのあの振る舞いがなかったら、平行線のままだったかもしれないよ。


さらにここでテレーズの知り合いが声をかけてくるわけだけど、そのおかげで時間に押されるようにして、ふたりは強制的に引き離されてしまう。

でもこれが良かった。
キャロルが心の中に湧き上がった想いに正直に自分のもとへ足を運んできたのと同様、テレーズも「自分が正しいと思うこと」=「素直な気持ち」で自ら彼女に会いに行くことができた。

なし崩し的ではなく、それぞれが自分の意思で相手のもとへ会いに行けたことに、ふたりを本当の意味で前進させる力が生まれたんじゃないかな。

テレーズは素直に正しいと思う行動を取った。その気持ちを理解したであろうキャロル。
余白と余韻が残されたラストシーンは、やはりハッピーエンドだったのだろうと思う。
イスケ

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