近本光司

モアナの近本光司のレビュー・感想・評価

モアナ(1925年製作の映画)
4.5
南太平洋の海に浮かぶ島で、わたしたちとは異なる衣装に身を包み、異なる言語をしゃべり、異なる風俗を実践する者たち。しかし彼らはわたしたちとおなじような顔つきで、おなじような身体性をもち、おなじような喜怒哀楽を感じている、少なくともそのように見える。そこに映っているのは紛れもなくわたしたちとおなじ人間なのだ、という信憑の成立。百聞は一見に如かずとはよく言ったもので、サモア島の民族に関する知識を手に入れることと、彼らの運動をまなざすことは雲泥の差である。映像はいかにすぐれたメディアかと、あらためてその力を思い知らされる。

 椰子の木登り(あまりにも背の高い椰子の木に登る子ども、2回上方へとパンしていくショットのすばらしさ!)、猪や海亀の捕獲、魚の銛突き、波に呑まれる男たち、求愛の踊り。とにかく驚くシーンが多くて見どころが満載だ。ショットやモンタージュはさながら映画文法の教科書かと見紛うような的確さで、ドキュメンタリーという概念すらほとんど存在していなかったはずの100年前にこれが撮られたという事実に驚くばかりである。そしてフラハティ夫妻の娘が、50年以上のときを隔てて、彼の地で捉えたサウンド。あの魅惑的な旋律。あのような土地が、少なくとも100年ほど前までは世界にあって、いまもひょっとしたらいくらかその残滓が見られるのかもしれない。そのことに途方もない感動を憶える。傑作。