レオピン

SCUM/スカムのレオピンのレビュー・感想・評価

SCUM/スカム(1979年製作の映画)
3.8
元々テレビ用に作られたがあまりに内容が過激すぎて放映禁止に。そして79年にセルフリメイクの形で劇場公開。日本では2014年に公開された。

イギリスが一気に嫌になるわ。まだ以前観た『If もしも....』の方がマシだった。。
全編画面は陰鬱で覆われている。撮影はほぼ室内だけ。外のシーンはあっても石炭運搬、畑での作業といった労働のみ。陽はささず鈍重で狭苦しい灰色の世界が続く。

舞台の少年院は他所で問題を起こした者が最後に送られる場所。中には明らかに発達に遅れがみられるような子が健常児と、それもかなり年齢差がある者とみな一緒くたにされている。

暴力を体現するのは主人公のカーリン。だがもう一人の問題児アーチャーのキャラクターがいい。ベジタリアンで革靴を履かず無神論者で礼拝にも不参加。本当は看守を死ぬほど困らせてやりたいだけという。次はイスラムへの改宗を匂わす。徹底した非暴力主義者。
「仏頂面は60 笑顔は13の筋肉を使う、だから笑顔のほうが省エネなんだ」

看守を殴って転院となったカーリンは初日から職員達にマークされていた。理不尽な暴力にも序盤はずっと耐えるのみ。ようやく反撃の機会と見るやビリヤードの球を布にくるみ手下に一撃をくらわす。そして一気呵成にボスを黙らせる。見ていてようやくここで息を吐けた。

続いて隣りの棟のダディ(番長みたいなもの)の黒人との頂上対決を制する。舎監から一人部屋の許可を得た時の顔がいい、ワルらしい顔つきを一瞬だけ見せた。 

正直この辺はよくある不良モノみたいで若干トーンダウンした。体操の時間に白人と黒人の人種間闘争みたいになるが、逆にホッとする。そこにあるのは健康的な暴力だったから。

この映画の基調はもっと陰湿な構造としての暴力にある。人を魂からねじ伏せるような沈黙せざるをえないようなハラスメント。底流にあるのは英国人の冷酷さか。

歴史上、支配被支配の徹底した区別の必要性から編み出した管理の手法とでもいうもの。ここでは人権などというものは彼らが統治の必要から作った欺瞞に満ちた道具に過ぎない。
邦画の囚人モノでここまでのものはみない。どうしたって儒教的な温情主義が顔を出す。

差別の肝は「同じ人間として扱わないこと」
なんだか会田雄次「アーロン収容所」なんかを思い起こす。異人種は犬以下の扱いを。捕虜の前で平然と着替えをする女性兵士や性行為を見られても何とも思わない将校たち。

悪い意味での英国気質。アングロサクソンの狡猾な正体に今更ながら吐き気がする。舎監が暴動を怖れてカーリンを抱きこもうとするところもやり方が分断統治そのもの。現地を二つの勢力に割り、どちらかを取り込んで育てていくやり口と同じものに見えた。

カーリンにレイ・ウィンストン
アーチャーにミック・フォード
デイビスにジュリアン・ファース
西村晃に似た院長はピーター・ハウエル

珈琲をくれた看守との対話で図星を突きすぎてしまいキレさせるアーチャー

朝から晩まで「人格形成は大事だ」と
だが現実には不可能だ
不自由な集団生活でどうやって個性を伸ばせと?
邪悪な人々の中に放り込まれれば健全な心も腐る

怖いのは受刑者だと、犯罪者と一緒にいることの危険性を述べるが、彼の言葉通り、力のないデイビスは強姦されてしまう。。 

暴力そのものの描写はそれほど多くはない。少ないからこそ刺さるとも言えるが、それよりもこの世の弱肉強食、搾取・支配構造をつきつけられることの方が重苦しい。

アクションとしての暴力ではなくシステム全体の暴力。カウンターの暴力を見てスカッとするようではまだまだ絶望が足りなかった。幸せだった。
アーチャーが達観していたようにこの世は監獄。常識ぶった大人たちはみな看守と同じ役割を演じているコマにすぎない。

唯一、ホッとできた場面は少年たちを集めて食事についてヒヤリングをしていた場面。魚が腐っているとか揚げ物がまずいとか。ここだけ見るとそんなに悪い環境とは言い難い。文句が言えるだけマシ。寮母のカウンセリングもあったし、それなりに形だけは整えてきている。
少なくとも食堂で気の合う奴らとテーブルを一緒にする自由はあった。こういう所から派閥が生まれる。コミュニティが出来る。今はそれすら作れない。事前に寸断されてしまっている。

70年代というのは精神障害者施設などの処遇改善の議論が激しかった。刑務所の場合も先進国では脱施設化・非拘禁化などの動きが見られた。流れとしては、
旧刑罰学<福祉国家的規律>から新刑罰学<ポスト規律>へ
規律からマネジメントへ、事後的介入から予防的介入へ

刑務所はもはや社会復帰と規律のための施設ではなく、保険数理主義のリスク計算によってハイリスクと判定された人口層を社会から排除・隔離しておくためのコンテナに過ぎない。
(バウマン)

スカムはなくならない。娑婆でさえブルシット仕事にまみれ人間の尊厳など消えかけている。今や暴力の芽は徹底して摘まれたところでの新たな管理が行われている。AIによるなめらかな管理。ウイグルなどではもっともっと息がつまるスカムな世界が広がっているのだろう。
現代では、あの頃の英国の少年院がかわいく思えるような状況が人知れず完成されつつあるのかもしれない。

⇒クライマックスの暴動に至る流れ、カット割りや食堂の感じなど香港の『プリズン・オン・ファイアー』(監獄風雲)にそっくり。林嶺東は絶対これパクったな。

⇒監獄プリズンもの映画ベスト級
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