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キートンの隣同士のTnTのレビュー・感想・評価

キートンの隣同士(1920年製作の映画)
4.0
 ”三人はしご歩き”なるアクロバットが見れるキートンの映画。この10分ちょいの尺だと何本でも見れる。youtubeなどにあがっていて鑑賞も容易い。

 お隣同士で両親に隠れて壁を挟んで文通するキートンとその恋人。ある日両親にバレてから、いかにその家と家に建てられた壁を超えて二人結ばれるかというストーリーが展開される。キートンにかかれば、物干しの糸も壁も電柱もアスレチックのように様変わりする。画面という箱の中でチョロチョロと行ったり来たり絶え間ない。そして最後のロマンチックなオチへと全速力で物語は進む。この強引で泥臭いつものキートン節のオチが、またよい。言葉にするとこんなもんだが、本当にあっちこっち行く彼の身体性には、一時も目が離せない!

  中村秀之著「瓦礫の天使たち」で、キートンの映画はアクション(目的や意図を持つ)ではなく、モーション(機械の非意識)であると書かれていた。”そのように振る舞う”という演技が多く、振り回される状況に適応すべく、ただ行為を行う。そのそれっぽくしてる様が笑えるし、また微妙にズレたことをするナンセンスさが面白さがある。また無声映画であり、当時の都市の発達や機械化が、そうしたキートンの映画に関係しているのだそう。

 黒人ネタが出る今作品だが、差別的では全くなく、それにむしろ今作品は滑稽であるという点で皆平等でもある。そういえば両親だって警官だって裁判官だって、ちょうど等価にバカにされている。ある意味情動を欠いたモーションに還元されたことで、人間の身体性によって人々を平等にできたのではないだろうか。だとしたら平和すぎるな、いいな。反対にエモーション側のチャップリンはその貧しい出自から、キートン的にはなり得ないのだととも思った(やはり悲劇的チャーリー)。
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