YAJ

チョコレートドーナツのYAJのネタバレレビュー・内容・結末

チョコレートドーナツ(2012年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

【Heart Wash】

 着火塾( https://chakkajuku.com/ )という映像制作集団がある。そこの代表武田成史さんと、とあるご縁で知り合って以来、お芝居を観に行ったり、彼らの作品が上映される短編映画祭を観に行ったりしている近年。
 最近は、週末金曜深夜に、メンバーの男性3人が映画について語るライブトークを始めたのを時々聴いているくらい(そしてかなりの確率で寝落ちして最後まで聴けていない・苦笑)。

 先週は、たまたま目が冴えて最後まで聴けた。その回のテーマ作品が、本作『チョコレートドーナッツ』だった。
 ライブトークの視聴者から紹介されてメンバーも観て、内容について語っていたが、誰もが「良かった!」「いい映画でした」と絶賛していたので鑑賞してみた。うん、いい映画でした。

 2012年のアメリカ映画、日本は2014年公開。けっこう話題になったらしいけど、そうか、まだそのころはR国滞在中だったし、YAJ的に映画を観てない“失われた10年(15年?)”の期間だったか。遅ればせながら鑑賞できてよかったです。



(ネタバレ含む)



 ゲイのカップルが、ひょんなことからダウン症の少年と暮らそうとしたことから巻き起こる、社会の反応、法の判断の是非について、重く問いかけてくる作品。
「法の隙間から零れ落ちる子供を 救いたい」と願うゲイ・カップルと、「同性愛を隠さない生き方が普通だと認識し、子どもが混乱する可能性がある」という法の判断。1970年代当時のことだからと聞き流すことが出来ないストーリー展開。
 テンポよく簡潔なお話の運び方も、なかなか巧い。

 また、時代設定を1970年代とし、まだまだ同性愛に対する差別と偏見が根強く、障害者への理解・寛容さも乏しい社会を舞台に、人々の感情をストレートに描いた演出がお見事。それは、あたかもジェンダーフリーや多様性を認めていこうという世相に希釈された現代人の内なる感情を露にするかのようでもある。

 なので、こんな作品を見せられると、少しだけ良心の呵責を覚える自分も居るのだけど、そんな感情も観終わる頃には世の不条理に物申したくなる慙愧の涙に流されていく。
 心洗われます。Heart Wash!!

 とにかく、ゲイのショーダンサー・ルディを演じたアラン・カミングが実に魅力的。いくつかの劇中歌も、その時々の心の内面を補って余りある挿入が見事。それを情感たっぷりに歌い上げるアランが、これまた素晴らしい。
 ラストシーンの「I shall be released」は、ボブ・ディランの歌だそうな。”Any day now, any day now, I shall be released.” と、原題(Any day now)にも引用された箇所は、切ない結末と共に深く心に残ります。

 とはいえ、社会のセイフティーネットで救われるべきは育児放棄にまで追い詰められている母親のほうではないかとか、ゲイ・カップルが他人の子どもを養育する権利を正当化することが法的正義ではなかろうとも思うが、どうだろう。

 そして、願わくばHappy Endが良かったのだけど・・・(涙)
 いろんなことを考えさせられる良作でした。
YAJ

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