柏エシディシ

ノスタルジアの柏エシディシのレビュー・感想・評価

ノスタルジア(1983年製作の映画)
4.0
4K修復版にて。
とにかく陰影と絶妙な色彩が際立つ作品なだけに、今回のリマスターの見事さ、功績は並外れている。
映画芸術のある種の頂点にある傑作。
普通の映画であれば数回、印象的なショットがあるだけで良い映画、忘れられない映画になるところ、本作はファーストカットからラストカットまで、粋を凝らした画面の連続連続で慄然とする。
観るこちら側も五感を研ぎ澄ませて画面に集中しなければ、その光の角度が変わる瞬間を、遠景に望める天使の姿を、微かに聞こえてくる自然の音を、見逃し捉えそびれてしまう。
絵画の様な映画。ただ眺めるだけでは映画は何も語りかけてはくれない。
こちらも一定の教養と、しっかりと「観る」ことを心掛けなければ、その画面に節々に隠されたメッセージを読み取る事は出来ない。
故郷ロシアとイタリアトスカーナとの間で引き裂かれる芸術家の苦悩と希求。
ロシアウクライナの紛争で故郷を追われる兵士や難民たちが絶えない時代に観るタルコフスキー。
"時間"への向き合い方、捉え方。そして"映画"への揺るぎない信頼に、ついついクリストファー・ノーランを思い起こさせる。
タルコフスキーやベルイマンが真に偉大なのは、どんな時代いついかなる時にも映画という大きな潮流の根底に居続けている事。
その真髄が最新の技術でまた露わになった。
劇場の暗闇の中で、目撃すべし。
柏エシディシ

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