クシーくん

大怪獣バランのクシーくんのネタバレレビュー・内容・結末

大怪獣バラン(1958年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

日本の秘境、岩屋部落でシベリアにしか生息しない蝶が発見され、調査に来た生物研究所員の二人が怪死を遂げる。真相究明の為、生物研究所の所員魚崎(野村浩三)と、亡くなった所員の妹、由利子(園田あゆみ)、カメラマンの堀口(松尾文人)が岩屋部落を訪れるが、住人は訪問者に排他的で、当地の湖水に棲むとされる婆羅陀魏山神の祟りを警告する。その最中、住人の子供が行方不明になり、婆羅陀魏様を恐れて制止する神主を振り払い、子供を救出する為禁則地へ向かう一行。果たして子供は見つかるが、湖の中から得体の知れない怪物が姿を現し…という話。

当時の宣伝は「ゴジラより凶暴、ラドンより巨大」との事で、前二作の怪獣とは異なり陸海空の全てを制覇したという点にのみ、優位性が見られる程度で、怪光線もソニックブームも起こさないバランでは少々部が悪い。
同日に地球防衛軍、ラドン、モスラと立て続けに観た所為もあるのかもしれないけど、見所である特撮シーンもただバンバン撃つだけで冗長に感じる。
バランが他の怪獣と比べてどうしても一枚落ちるように感じたのは、やはり秘密兵器などではなく、普通の爆弾で斃せてしまった点に尽きる。体が柔らかく攻撃を跳ね返す設定は面白かったが、説明されただけで特に視覚的な変化球があった訳でもないのがまた残念。
唐突に飛び立つのはガメラを思い出した。ムササビのように皮膜を広げているのだが、高い所から滑空している訳でもなく平地からいきなり平行に飛翔する原理が謎過ぎる。ガメラは火炎噴射とかするのでそれなりに納得(?)も出来たが、バランは飛べる以外は普通の古代生物なので、飛べる設定だけ他と比べて浮いている。

一番腑に落ちなかったのが、主役の野村浩三演じる生物学者を始めとした都会の人々の不遜な態度。「日本のチベット」北上川上流の集落岩屋村に残る信仰を、科学礼賛の美名の下に迷信と切り捨て、禁足地を踏みにじり、バランを挑発して集落を破壊させた挙句、都会を襲われるのは困ると言って、海にいたバランを一斉砲撃で追い立てて、遂に羽田沖から上陸したバランを殺してしまう。
ゴジラやモスラなど、所謂東宝怪獣映画他作品では牧歌的な文明批判を展開しているが、バランにはそうした視線すらなく、ただ貴重な古代生物が死に、学術的解明の機会が永遠に喪失した事を嘆くばかりであり、傲慢も甚だしい。
展開の良し悪しは別として、人間ドラマが欠如していると惹き込まれる事は難しいなと、前二作と比較して強く感じた。また、結局上陸と言っても空港で足止めされてしまい、東京で大暴れ出来なかったのも中途半端な印象を強めてしまった原因だろうか。羽田空港のミニチュアが破壊されるシーンはなかなか迫力があったのだが。
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