レインウォッチャー

アルプスのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

アルプス(2011年製作の映画)
3.0
遺族のもとを訪問し、故人に代わって思い出の断片を過ごすサービスを営む者たち…

なんて設定をきけば、ともすればハートフルに泣けるファンタジーが生まれそう。しかしそこはヨルゴス・ランティモス・ワールド、そうは問屋が卸すはずもなく、こちらの眉間の皺を毎分ゴリゴリと増やしてくるぞ。

ヨルゴス作品を観ていると、非監督・プロデュース作『アッテンバーグ』から英国王室を舞台にしたメジャーヒット『女王陛下のお気に入り』さえも、シチュエーションはまったく異なるようで、実は同じエッセンスが頻出していることに気づく。たとえば、

・独自のルールが支配する限定的な環境や空間

・肉体的接触を伴う性行為への嫌悪に近い風刺

・命令等によって強いられる不自然な動作(しばしば、劇中の人物たちはぎくしゃくと踊る)

などだろうか。

このような要素を組み替えて、わたしたちの多くが当たり前に感じている家族や性愛といった概念に揺さぶりをかける。するとどうだろう、やがて、一見不条理でグロテスクに思えたこの映画の世界が、わたしたちの日常と地続きの、ちょっとしたデフォルメであるように思えてくるのだ。

今作もまた例外ではなく、故人代行で「再生」される風景の無味乾燥な虚しさとその先に生まれる滑稽さがじわじわと効いてくる。
日常の自然な振る舞いや誰かとの尊い(はずの)思い出も、実は都合よく且つ二番煎じに「演出」されているもので、わたしたちは誰もが与えられた振付を下手くそにこなしているに過ぎないのでは…などと感じてみたり。

当然、このような体験は居心地悪さ、不安を連れてくるものだ。
突発的で容赦ない暴力もヨルゴス作品の特徴だが、それはまるで持続低音的に生じ続ける不安感に力づくで蓋をするようなスパイクであるようだ。その瞬間にこそ、演出の及ばない本能と真実があるのかもしれない。