ろく

ピンクカット 太く愛して深く愛してのろくのレビュー・感想・評価

4.2
森田芳光はコミュニケーション不全になる。

実際、この映画ではしばしば相手の言ったことを聞かずに自分の意見を言うシーンが散見する。
「このブラフロントホックっていうのよ」「前あきブラだね」「フロントホックよ」
「わたしたちのことも考えて」「わかったよ、だからもう一回」

それはセックスのシーンでもそうだ。二人で行っているはずなのにいつの間にか一人になっている。

そう、僕らは「相手のことを考えてない」。いや、考えているって言う人もいるかもしれない。でもそれは「考えているフリをして自分に有利になるように自分が決めている」だけ。そうコミュニケーションなんかそもそも不可能なの。コミュニケーションの「ふりをしている」だけなんだ。

そして森田はそのことにとても自覚的な監督である。そもそも出来ないのだからする必要はない。それでいいんだ。それでも、それでも。

そう、相手とは通じるんだ。

この映画では「家族ゲーム」の萌芽を見ることが出来る。そこではコミュニケーションなんかしなくたって十分「幸せ」な世界を作ることが出来る。大事なのは「しているフリをする」こと。それが出来れば世界はバラ色になる。

そしてそれがわかった時、あっとなった。参ったよ。なんて「幸せな映画」なんだってね。もう最後のシーンなんかただただ幸せでしかない。そうだ、「家族ゲーム」でも大事なのは「フリ」なんだよ。「できない」ということを負い目に感じないこと、そしてそれを前提で受け止めること。それこそが森田映画のテーマなんだ。だとしたら森田はずっとそのことだけを撮り続けている映画監督なのかもしれないって。

所々にかかる昭和歌謡がほんとにずるい。もうそれだけでこの映画は素敵すぎて参ってしまった。そしてフリをしている主人公たち。でもそこに負い目はない。気負いもない。あるのはただただ幸せなだけ。

相手のことをわかる。それは傲慢でしかないんだ。
ろく

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