イチロヲ

刺青のイチロヲのレビュー・感想・評価

刺青(1966年製作の映画)
4.0
芸者小屋に売られてきた薄幸娘(若尾文子)が、背中に女郎蜘蛛の刺青を彫られたのを契機にして、したたかに生きるための術を体得していく。谷崎潤一郎の同名小説を映像化している、エロティック・ドラマ。筆者は原作を読了済み。題名は「しせい」と読む。

原作の主人公である彫物師が端役にまわされており、別の短編「お艶殺し」のプロットが加味されている。二枚舌と肉体を武器にすることを覚えた娘と、愛憎の末に破綻を来してしまう青年を対比させていく語り口になっている。

江戸時代の浮世絵から飛び出してきたような、若尾文子の婀娜っぽさがすべての作品。雪を欺くほどの美肌、帯をしどけなく締める艶姿、黒曜石のような眼球。乳房を出していないのに、乳房を見たような錯覚に陥るところがスゴイ。

あえて欲を言えば、刺青を入れられる前後の、人間の豹変ぶりをはっきりと描いて欲しかった。最初から気骨のある女だと、何も変わっていないように見えてしまう。とはいえ、総合的には谷崎文学の魅力を十分に感じ取ることができるので、満足度は高い。
イチロヲ

イチロヲ