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カルテットのakrutmのレビュー・感想・評価

カルテット(1981年製作の映画)
3.6
1920年代後半のパリを舞台に、夫が詐欺で投獄されホテル暮らしができなくなった女性マリア、彼女に住居の一室を部屋を提供して愛人にしようとする美術商の男性、そんな夫に抗うことのできない妻の三人の奇妙な関係を、当時の風俗とともに描いた、ジェームズ・アイヴォリー監督のドラマ映画。原作は英作家のジーン・リースが1928年に上梓した同名の半自伝的小説で、彼女自身の若い頃のパリでの経験が主人公に投影されている。

1920年代後半のパリと言えば、輝かしきベル・エポックが終わり経済的に停滞しているにも関わらず、上流階級の金持ちたちはそれまでと変わらず社交場を通じて退廃的な生活を送っているという時代。芸術史で言うとアール・デコの時代で、映画の中でもレンピッカの絵画(らしきもの)が飾られていたり、彼女の絵画で描かれているようなファッションの女性たちが出てくる。そんな時代の雰囲気を十分に味わえる映像は、さすがジェームズ・アイヴォリーと言えるだろう。

でも、そのような芸術的な価値を除けば、まあ平均的なレベルの作品だろう。マリアを囲う美術商の男性がみせる振る舞いは女に手が早い男性の典型であって、特に興味を惹かれるものではない。一方で、女性たち(マリアや美術商の妻・ロイス)の振る舞いは腑に落ちないし、彼女らの内面(の葛藤)があまり伝わってこない。特に、世間的にはロイスを演じたマギー・スミスの評価が高いようだが、それほど良いとは思わなかった。マリアを演じたイザベル・アジャーニの演技のほうが良くて、特に狂気を帯びてくる後半はいつもの彼女(の演技)らしい。夫と出会う前にオーディションを受けるが相手にされない頃のイザベル・アジャーニが可愛かった。マリアの夫・ステファンを演じたアンソニー・ヒギンズのイケメンだけれどもちょっと胡散臭さも漂う雰囲気が役柄に一番合っていて、個人的には最も高評価。

結局、最も胡散臭く見えて、実際に悪いことをして投獄されるステファンが実は最もまともだと描くことで、当時の上流階級の人々(や、その薄っぺらさを見抜けない女性)を皮肉っているという映画だと言える。
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