ネタバレ
過剰な情緒劇と間延びした検察取り調べ
周防監督が感動大作を目指したかはわからないが、商品パッケージには
「周防正行監督が描く、愛と死を超える魂の慟哭」
と表記されている。
しかし、私が感じたのは
「男女医者の下層レベルの愛憎劇、女医と患者の情緒過剰な信頼関係、親族の医者丸投げ姿勢、検察の筋書きに沿った強制聴取」のみ。
愛と死を超える魂の慟哭などみじんも感じられなかった。(←まぁ広告文面と実際の食い違いはよくあることだが)
個人的思惑を述べるなら感動大作を指向したのは完全な間違い。
冗長にならないよう淡々と事象を積み重ね、事実の集積の中から「愛と死を超える魂の慟哭」が視聴者の心の中にじわじわ湧きあがってくるような構成にすべきだった。(←何を偉そうに笑)
キャストに関して、検事役としての大沢たかおさんは表情が寝ぼけ過ぎという感じで(よく言えば優男顔)、狡猾強権検事としてはイメージ違い。喰らいついたら離さないブルドッグの様ないかつい顔、或いは冷酷非情な顔の役者が良かったと思われる。
二股軽薄ドクターとしての浅野忠信はあの少ない出番では勿体ないなぁと。でも検事役も違っただろうし・・。
患者役の役所広司さんは安定の演技とも言えるが、女医との恋話が疑われないようなもう少し高齢者の方が良かったように思う。疑っていたのは俺だけかもしれないけど笑、でも女医自殺未遂後の患者への傾斜は恋愛領域に入っているようにも感じられたので。
そして女医の草刈民代さん、全て申し分なかったように思いますが、あのヌードは必須だったとは思えません。
なんだろうな・・映画内容にもよるだろうがこういったシリアス劇だとヌードが不快に感じられる場合が多い。おそらく匂わせ場面だけで十分だったはずだよ。
終末医療の処置に関しては素人目でも急ぎ過ぎてしまった感はあるよね。そこに検察の突き入る余地が生じたのもむべなるかなという感じ。
患者の意を汲んでの心意気もまた理解はできたけどけどね。うーん・・・ほんとうにむずかしい問題。
日本国内で各賞総なめにしているような作品は往々にして凡作である場合が少なくないが、本作は凡作とは言えないまでも個人的には二つ星レベルと判定させていただきました。
私だって立て続けに親族を亡くしているし、テーマの重大さは理解しているつもりですが悪しからず。
追記:上レビュー投稿後に情報を調べたらなんと本ページ内解説あらすじに
「『それでもボクはやってない』の周防正行監督が、法律家でもある朔立木の小説を実写化したラブストーリー。重度のぜんそく患者と恋に落ち、彼の願いから延命治療を止めた行動を殺人だと検察に追及される女医の姿を見つめる。」
とあったのでずっこけてしまったよ。なんだやっぱりラブストーリーだったのか・・・
となれば双方が恋心を抱く動機と過程が弱すぎるということになるなぁ。
実際の事件を元にした小説原作ということだが、実際は緊急搬送された患者が対象であり長期入院していたというわけではない。もちろんその他の不倫情事劇や医者患者間の恋愛感情は創作。おそらくは検事取り調べもフィクションなのだろう。
であればパッケージキャッチコピーも
「安楽死か?殺人か? 高尚な医療倫理か?愛情ゆえの拙速な判断か?」などとしてもらった方が視聴者側としても余程すっきりしたであろう。
「周防正行監督が描く、愛と死を超える魂の慟哭」というオリジナルキャッチコピーは映画の実態に全くそぐわない空文面だったわけだ。
追記2:役所広司がなぜ重度の喘息になったのか? その経緯・環境が当初は分からず全然説得力を欠いていたが、退院後の住環境描写、家の前に川を挟んで工場群が建っていることである程度納得。※しかし空気も悪くなさそうだし川の汚染も見られなかったので説得力は弱い。
個人的経験とはなるが、ある巨大工業地帯の幹線道路を平日サイクリングしていたところスモッグの悪臭が酷く、真夏だったこともあり急速に気持ち悪くなり完全にグロッキー状態。工業地帯を抜けられずUターンしたことがありましたね。
現代でもそんな状況であれば付近の住民にとっては耐え難いだろうし、ましてや公害野放し時代は地獄の様相だったことでしょう。
022006