KengoTerazono

風と共に散るのKengoTerazonoのレビュー・感想・評価

風と共に散る(1956年製作の映画)
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目も当てられないほどに気持ちが引き裂かれた。どう話が転がっても胸糞悪すぎるだろ。男性のコンプレックスをこれでもかと詰め込んだキャラクターが転げ落ちて行く様は、かわいそうというより見るに耐えなかった。医師に自身の不能を伝えられ、酒場を後にすると、子供が馬のおもちゃにまたがって遊んでいる。机の中に隠されていた拳銃を誰かが構えることはあってもなかなか発砲には至らず、またもとの場所にしまわれる。様々な場所に隠されているセックスシンボルが彼のコンプレックスや、悲劇性に追い討ちをかける。筋だけでも気の毒なのに、細かな描写によって観客をさらに目を背けたくなる事象へと追い詰める。

ドロシー・マローンはめちゃくちゃむかついた。金髪で日焼けした褐色肌という煽情的なキャラクターにまんまと挑発されてしまった、、、。特にローレン・バコールとの初対面のシークェンスはムカつきすぎて声出た。

それとない会話や表情のカットバックで登場人物の葛藤の機微を捉えているところが素晴らしい。

赤、黄色、茶色の組み合わせと、青と黒の組み合わせが一緒になることが多い。マローンの場合はブロンドと日焼け肌で全体的に黄色がかっているから、赤のスポーツカーや紅葉の公園がよく似合う。ロック・ハドソンとロバート・スタックと、バコールの旅行のシーンで、バコールがいなくなった部屋の中で、スタックが彼女を探すシークェンスがあるが、あの時の全体的に青みがかった部屋と顔が黒みで覆われているのは、緊張感があって良かった。あとは、マローンがハドソンの部屋で彼を誘惑するシークェンスも、黒すぎて人の影しかわからなかったのに、マローンが灯りをつけると2人の顔がふっと浮き出てくる。エロティックな状況にハッとさせられるし、何か起こってしまうのではないだろうかとハラハラさせられる。また、バコールが子を授かったことをスタックに伝えるも、彼は拒絶してしまうシークェンスでは、拒絶された瞬間彼女の顔の上半分が陰で覆われる。部屋の明るさと相俟って彼女がいかにショックを受けたかがわかる。

鏡の使い方が素晴らしい。3人での旅行の際、バコールにホテルの中を案内するスタックをじっとみつめているハドソンの姿が小さな鏡に映し出されている。バコールとマーロンが初めて会った時に会話するシークェンスでは、キャメラはバコールの方を向いているものの、マーロンがバコールの左側にある鏡に反射していて、カットバックがひとつのショット内に組み込まれている。酒に酔ったスタックがバコールとハドソンを集めてカフェで呑むシークェンスでは、バコールとハドソンがスタックの座るカウンターへ来ると、キャメラはそのまま左へパンして黒人のウェイターを映し、その後3人の向かいにある鏡を映す。キャメラは180度回転して反射する3人を映したが、一周回ったかのようなダイナミックさがある。マーロンがスタックに、彼の妻と親友の浮気を唆したシークェンスの終わり際では、スタックは自分の向かいにある鏡を睨みつけ、呑んでいた酒を自分の顔にかける。彼の中での最後のなにかがへし折れると同時に最悪の結末への幕開けがこのショットに凝縮されている。

構図の几帳面さが際立っていた。移動撮影の精緻さ(巧みなドリーさばき)と息の長いショットは素晴らしい。人がフレームアウトする時の抜け感がとても気持ちよかった。

音楽の使い方が面白い。酒場での殴り合いのシークェンスで流れている景気のいい音楽が、殴り合いを何かおかしなものにしてしまうが、ジュークボックスが倒れて音楽がやんだ瞬間、この音楽は物語世界外の劇伴ではなかったことを思い出す。その時観客は現実に引き戻され、スタックの不甲斐なさにやるせない気持ちを募らせることとなる。これは兄妹の父親が階段から落ちて死ぬ時にかかっている明るい音楽にも言えることである。

親密で懐かしいノスタルジーに包まれた思い出は気持ちよく、全能感に浸ることができる。その中にいれば、好きな男を思いの儘にできる気がするし、自分が劣った人間であることを忘れることができる。でもあの頃には戻れない。あの頃に引きこもったままでは大事ななにかを、今ここにしかない何かを失ってしまう。50年代のスタジオ映画は過ぎ去りし、栄光のあの時をもう一度味わいたいという思いと、もはやそんな時代は2度と訪れまいという諦念あるいは絶望感に引き裂かれたものが多い気がする、、、。
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