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幸せなひとりぼっちのkitoのレビュー・感想・評価

幸せなひとりぼっち(2015年製作の映画)
4.5
とても素敵なヒューマンドラマで良かった。

去年だか一昨年だかにオープニングのシークエンスで早々に観るのをやめたことがある。花屋でカスハラちっくなイチャモンをつけ、毎日、自宅周辺を見回ってはコミュニティの規則違反をしている住人に口汚く文句を言うーーフィクションなのに、その老害っぷりが観ていられなかった。まあ、当時は少し疲れていたんだと思う。

そもそも主人公が頑固ジジイでめんどくさそうなキャラなのは想像がついていて、今回は何ということもなくすんなり観続けられた。少し変人とも思える主人公が次第に愛すべき好々爺に変わっていくだろう展開も想像に難くない。

前半、主人公は数回、自殺を図り、その度、走馬灯のように人生が蘇る。少しコメディ風味でニヤッとなりながら、彼の幼少期からの人生を辿ることになる。短いのに毎回、様々なエピソードが起こり飽きない。まるで朝ドラのジャブ連打といった演出で、あれよあれよという間に物語に引き込まれた。

開始から40分ほどで妻となる女性が出てくる。この過去の思い出パートは若い美男美女の役者が演じるので華がある。スウェーデンというとイングリット・バーグマンが大好きで、本作の女優イーダ・エングヴォルの芯が強く凛とした雰囲気は少し似ていると思う。

後半は向かいに引っ越してきたイラン人家族との交流が描かれる。とりわけ妊婦でしっかり者の奥さんがグイグイ距離を縮めてきて、人生に絶望し、怒りだけを外に向けていた主人公の心が次第にほぐれてゆく。

全ては亡くなった妻が原因なんだろうと前半でわかるのだけど、終盤まで詳細が語られず、観るものはずっと気になる。わかっているのだけれど上手い構成だなぁと思う。さらに出てくる子供も猫も可愛い(猫は似た二匹が使われたそうだ)

近所に住む親友を介護施設に強制的に入れようとする職員と揉めるくだりがあり、なぜ、強制収容なのか少しモヤっとした。

恐らくは民間委託業者が補助金目当てであんな風な事態になるのだろう。バラ色ばかりでもない福祉問題やさらには移民、LGBTなどほんのり社会問題も出てくる。

物語、映像とも王道で、もはやハリウッド映画と言われても全然違和感がなく、リメイクされるのもさもありなん。そのトム・ハンクス版も引き続き観てみようと思うけれど、観るまでもなく本作の方が絶対に好みだと断言できちゃう、、、
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