櫻イミト

朝から夜中までの櫻イミトのレビュー・感想・評価

朝から夜中まで(1920年製作の映画)
3.0
当時ドイツ本国では公開されず、日本と上海でのみ公開された隠れた表現主義映画。表現主義演劇の先駆けとなった同名舞台劇の映画化。撮影はラング監督「ドクトル・マブゼ」(1922)「ニーベルンゲン」(1924)、ムルナウ監督「ファウスト」(1926)を手掛けるカール・ホフマン。五幕構成。

生活に疲れた銀行窓口係の男は、訪ねてきた美しい貴婦人に一目惚れし銀行の金を盗み出す。つつましい家庭生活を捨て暴走を始めた男の一夜は。。。

全編がパースの歪みまくった表現主義的セットの中で描かれる。前衛舞台劇をそのまま映画的に収録編集したような一本。ストーリーは人生転落劇の定番といえるようなもので解りやすすぎるほど。また全編黒バックのセット撮影なので映像としては小じんまりしている。しかし美術セットの徹底的に歪んだパースは強いインパクトがあり、当時の表現主義演劇の空気と熱気は伝わってきた。また、自転車レースの歪んだ光は悪夢映像として印象に残った。

日本では「カリガリ博士」(1920)を凌ぐと論じられるほど評判になったとのこと。

・キネマ旬報1923年1月1日号
「恐らく今日迄に紹介せられたる表現派映畫中最良のものであり且表
現派の使命をよく表して居る映畫ではあるまいかと思ふ」

映画好きで知られた同時代の小説家・尾崎翠は、本作のラストをムルナウ監督の「ファウスト」を引き合いに論じている。私も同じく連想した。

同時に、貸本時代の伝説的な漫画家・徳南晴一郎の歪んだ線を思い出した。彼は本作を観ただろうか?
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