イチロヲ

黒蜥蜴のイチロヲのレビュー・感想・評価

黒蜥蜴(1968年製作の映画)
4.0
犯罪行為に美徳を見いだしている女盗賊・黒蜥蜴(丸山明宏)が、頭脳明晰な私立探偵・明智小五郎(木村功)に愛憎を向けていく。江戸川乱歩の同名小説(三島由紀夫の戯曲版)を映像化している、サスペンス・ドラマ。筆者は原作を読了済み。

物語の開始時点から、黒蜥蜴と明智が火花をバチバチと散らしまくる。黒蜥蜴が先手を取り、宝石商の令嬢(松岡きっこ)誘拐とダイヤモンドの強奪に成功するのだが、明智が巧妙なトリックで巻き返していく。

犯罪劇としてはツッコミどころ満載だが(これは原作も同じ)、黒蜥蜴の偏った愛憎ぶりが、耽美なピカレスク・ロマンを生んでいる。とりわけ、「心優しい人間ほど、残酷な感情を暴発させてしまう」という、犯罪心理学の掛け合いが興味深い。

本拠地である「肉の蝋人形館」では、三島由紀夫がナルシシズム全開の立像となって登場。「美」に執着する黒蜥蜴のキャラクターを、さらに高次へと引き上げて、独り立ちさせることに成功している。富田勲の優雅な劇伴も素晴らしい。
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