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ブロンドの恋のemilyのレビュー・感想・評価

ブロンドの恋(1965年製作の映画)
4.0
 田舎の小さな町では女性たちは製靴工場で働き、寮生活。軍の予備兵が常駐し、都会へ人口が流れてしまうのを防ごうとしている。アンドゥラは彼氏がいるがピアニストの青年ミールダとパーティで出会い一夜を共にしてしまう。久しぶりに彼氏がアンドゥラの元を訪れ、女子寮に侵入し大惨事に。しかし彼女の気持ちはミールダへ向かっていた。彼の実家のあるプラダへ会いに行くが・・

 かわいくもコミカル。冒頭はブサイクな黒髪の少女がギターの弾き語りをしているシーンから始まる。規則正しく、将来も見えた環境下の中、それでの日々の中で楽しみを見つけ、男のことでドキドキして、おじさんの兵士達も女の子たちに夢中になる姿を、コミカルかつポップに音楽のリズムにのせて描写し、モノクロの映像の中にひときわ光を放つようにブロンド少女が美しく浮き上がる。下からとらえたり、ニット帽に顔がすっぽり包まれてる彼女、ミールダの大きな黒いコートを試着してその大きいものに包まれてる姿を鏡でみてるアンドゥラ。白黒ながらも色彩を感じさせる、かわいさとポップさがあり、コミカルな描写をところどころ挿入し、人間らしいエゴとエゴのぶつかり合いが生み出す絶妙な不穏な空気感が、自分の中のそれと重なり合っていく。

 音の効果も非常に大きい。冒頭ののんびりしたアコギの音色、ミールダが奏でるピアノの音色、音にのるように、音の間を埋めるように、また会話の間を音が埋めるように、雰囲気に拍車をかけ、音楽そのものが筋を引っ張っていく場合もある。特に興味深いのはミールダの両親の家に行ってからのエピソードである。会話の発展の仕方も彼女とは関係ないところの両親の会話をしっかり見せ、3人になってから彼女を攻めたてながら、次第に二人の会話に発展していき、どんどん核心からずれていくあたりも、エゴとエゴのぶつかり合いで非常に面白い。そこに寄り添うには、テレビから流れる音楽であり、あまりにも不釣り合いな音楽が逆にマッチし、そのズレ感が絶妙な空気感を生み出すのだ。そのあとの教会の鐘の重なりのミスマッチも印象的である。

 物語は至ってシンプルで、田舎の閉鎖的な空間の中で、繰り広げられる恋物語であり、そこには寮にいるたくさんの女の子たちがいる。アンドゥラの指に収まる指輪のアップから、そこに絡めある友達の指、 ヾベットに横になって彼女の話を聞く友達がいる。そう、すべての物語は友達へ語られ、共有されていく。語ることで彼女の恋物語は生きて、生を持ち、それが誰かの中で憧れとして存在していくのだ。一夜の恋、彼にとってはたくさんの女の子の中の一人だけど、閉鎖的な変わり映えのない日常から逃げ出すには十分な恋である。彼はプラハに住んでいるのだ。そこに行くだけで、恋として成立する。またそれを友達に話すことの優越感は、心地よい満足感を与えてくれるのだ。

 スタイリッシュかつコミカル、意味深なダンスシーンを大きく捉えて、閉鎖的な街でありながら、それでも世界は大きくこんなに人があふれている。白黒の衣装の男女がどんどん増えて、大きく斜め上からとらえるダンスシーンが非常に印象的である。その中にいるどこにでもある普遍的な恋の物語も、その描き方、そうしてまたラストが冒頭へ戻っていき、彼女の語る恋物語を耳元で聞いたような気分になる。
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