みかんぼうや

ブラディ・サンデーのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

ブラディ・サンデー(2002年製作の映画)
4.1
究極のドキュメンタリー“タッチ”作品。もはや事件当日の現場に潜入し密着取材でカメラを回し続けたとした思えない圧倒的なリアリティに溢れた映像。観ている間、画面に映る人間たちが俳優で全て演技であるという事実を完全に忘れてしまう、現代版「アルジェの戦い」ともいうべき臨場感と緊張感(こちらはデモでテロではないので背景は大きく異なるが)。

本物の現場を映したドキュメンタリーではなく、あくまでも“ドキュメンタリータッチ”という作り物としてここまで極限に現場の空気感を再現したことが凄い。

イギリス軍と北アイルランドの市民デモが衝突し多数の死傷者を出した「血の日曜日事件」の一日を描いた本作。デモという集団的安心感による一部の暴徒化。群衆に対する恐怖心からくる自衛心により攻撃を開始し歯止めがきかなくなる軍の兵士たち。緊張感の中で起こる一瞬の小さな摩擦が大惨事に変わっていくプロセスがなんとも生々しく描かれる。本作全編が1日に起きた衝突までの過程と衝突の現場のため、ストーリー展開はほぼないのだが、凄まじい映像だけで110分全く集中力途切れることなく観続けられる骨太な作品。

最近、「心が震える」ような作品に出会えず★4.0以上をつける作品が減っていたが、本作にはただただ圧倒された。そして、ラストに響くU2のあの名曲とボノが叫び続ける「ノー・モア!」にその震えが止まらない。

この「血の日曜日事件」の約3年前を描いたのが「ベルファスト」。ともに一連の北アイルランド紛争を背景に抱えた作品であることから、セットで観ることで、北アイルランド問題や当時のカトリックとプロテスタントの対立を学ぶいいきっかけになるかもしれない。

ポール・グリーングラス監督の作品は実は初めてだったが、この作品を作った監督が他の作品ではどのような演出をするのか、ただただ気になる。これから少しずつ他の作品も観ていきたい。
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