櫻イミト

ゲニーネの櫻イミトのレビュー・感想・評価

ゲニーネ(1920年製作の映画)
3.5
「カリガリ博士」(1919)の監督ロベルト・ヴィーネ、脚本カール・マイヤー以下スタッフが、同作の直前から直後に跨って制作(公開は翌年)したドイツ表現主義映画。※88分全長版を鑑賞

画家パーシーは、自ら描き「ゲニーネ(本物)」と題した娘の肖像画に取りつかれていた。ゲニーネは吸血族の女司祭だったが敵部族から襲撃され奴隷市場で売られていた。彼女を買ったのは老いた変人貴族メロ卿。自宅の地下室にゲニーネを幽閉し愛でていたが。。。

「カリガリ博士」の同一スタッフによるプロトタイプとして知られ、前から見たかった一本。期待に違わずなかなか楽しめた。同作に比べると美術は、表現主義というより現代に続くゴシックカルチャーの元祖のような印象。メロ卿の屋敷は書斎も地下室も怪しさを極めた大好物なデザイン。ゲニーネの衣装も同様で(後の女性パンクロッカーたちがオマージュしている)個人的には抜群に好みだった。

ゲニーネ役のフェルン・アンドラがかなり魅力的。特に前半は見世物小屋の狼少女の出自を観ているようでワクワクした。彼女は義父がサーカス芸人で幼いころから綱渡り芸人としてステージに立っていたとの事。身に沁みついた動物的とも言える身のこなしは本作でも発揮されていて、やはり幼いころからパントマイムに勤しんだロン・チェイニーを連想した。

メロ卿の風貌も個性が強く、例えればノスフェラトゥのシルエットをしたプロフェッサーX。前半で退場するのが惜しまれる。映画全体としても前半が圧倒的に盛り上がり後半につれて失速する。制作期間に間があいたたのが原因かもしれない。”死”の描写に映像的演出的にもっとインパクトがあれば失速を免れたように思う。

興行的にはうまくいかず意外に知られていない本作だが、良い意味で俗っぽく100年前のゴシック感を気軽に楽しめる、個人的偏愛の一本。
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