空

秋刀魚の味の空のレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.5
小津安二郎の遺作。序盤で鱧が出てくるものの、肝心の秋刀魚は最後まで登場しないというタイトル詐欺映画。

似たようなプロットの『晩春』が占領下の時代を描いていたのに対して、本作の舞台は高度成長期。年数で言えばたかだか十数年の差なんだけど、この間に日本では急激に工業化が進み、街並みはすっかりコンクリートだらけになり、人々の話す言葉には横文字が増えた。そうした時代の変化が画面の端々から伝わってきて、しかし一方では未だに軍艦マーチで鼻息荒く盛り上がっちゃうような人物も出てくるというちぐはぐさが、良くも悪くも過渡期にあった当時の日本を活写してると言えそう。

しかし何と言っても個人的に注目したいのは、岡田茉莉子演じるツンケンした若妻・秋子。美人なのは言わずもがな、表情や所作、口調の一つ一つが可愛いのなんのって。結婚後も自分の仕事を続けてたり、夫に対してハッキリ物言う性格だったり、当時の基準ではなかなかに先進的な女性像でもあって、戦後日本の社会・文化の移り変わりを捉えた本作において地味に象徴的なキャラクターだと思う。

あと、東野英治郎の酔っぱらい演技は絶品!
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