こなつ

秋刀魚の味のこなつのレビュー・感想・評価

秋刀魚の味(1962年製作の映画)
4.0
名匠・小津安二郎監督の遺作となった作品。妻に先立たれた初老男性と結婚適齢期を迎えた娘の心情をユーモラスに細やかに描いている。

ずっと傍に置いておきたい、でも行き遅れては困る。今も昔も変わらない年頃の娘を持つ親の心情が見事に描かれていて面白かった。2週間前に鑑賞していたが、postするのを忘れていた。

サラリーマンの平山周平(笠智衆)は妻に先立たれ、長女路子(岩下志麻)に家事一切を任せて暮らしている。友人に路子の縁談を持ちかけられても、まだ早いと聞き流してしまう。そんなある日、中学の同窓会に出席した平山は、酔い潰れた元恩師・佐久間(東野英治郎)を自宅に送り届ける。そこで彼らを迎えたのは、父の世話に追われて婚期を逃した佐久間の娘・伴子(杉村春子)だった。それ以来、平山は路子の結婚を真剣に考えるようになる。

父・周平も一緒に暮らす弟・和夫(三上真一郎)も家の事はすっかり路子に頼っている。結婚した兄・幸一(佐田啓二)もしっかり者の嫁・秋子(岡田茉莉子)にいつもガミガミ言われ、男どもは何とも情けない。その情けない男の代表みたいな落ちぶれた元漢文教師・佐久間を演じる東野英治郎の演技が本当に上手い。「結局、人生ひとりぼっちですわ」という佐久間の台詞が何とも真に迫っていてホロりとする。

まだ小津作品は沢山観ているわけではないが、あまり戦争の事に触れないイメージがある。今回も中学時代の友人達と戦争の話は全くしなかったが、平山は元軍人だった。街で軍隊時代の部下に会って一緒に行ったバーで「軍艦マーチ」が流れる。笑いながら敬礼する平山だが、人には言えない戦争での体験があったのではないか、小津自身もまた、、、そんな事を考えてしまった。

デビューして初めて台詞のある作品に出た岩下志麻は、決して演技が上手とは言えないが、20代にして既に貫禄さえ感じる落ち着きがあった。小津は、棒読みの役者、素人っぽい役者が好きだと言われている。そういう彼が映し出す世界は、リアルで優しく心地良いものだった。
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