マティス

ディア・ハンターのマティスのレビュー・感想・評価

ディア・ハンター(1978年製作の映画)
5.0
 久しぶりに観た。
 今回気づいたのだが、マイケル・チミノ監督が39歳の時の作品だったということにも驚いたが、ベトナム戦争が終わった後わずか3年後の1978年に作られた作品だった、ということにもっと驚いた。
 前に観た時は、そんなことに全く思いを馳せることをしなかったが、すごいことだとあらためて気づかされる。「地獄の黙示録」はこの作品の1年後だ。日本で言うと、1948年にこのような作品が作られたということになる。

 マイケルが帰還し、ニックが遺体となって帰って来た頃には、大規模な反戦デモが全米で繰り広げられていたはずだ。それをマイケル・チミノ監督は描かなかった。
 彼はアメリカが、アメリカ国民が深く傷ついた様を、感情を抑えて淡々と描いて見せた。それがかえってアメリカの悲しみの深さを印象付けている。 


 アメリカ市民の普通の日常の生活のすぐそばに、戦争があった。
 一緒に働き、仕事が引けてから一緒に飲みに行きバカ騒ぎをし、週末には一緒に鹿狩りに行く。そんなごくありふれた一週間の先の月曜日には、ベトナムがあった。
 彼らが命を懸けた戦争は、自国を守る戦争ではなかった。ただベトナムを舞台にした、資本主義と社会主義の互いの覇権を争った大国の代理戦争だった。

 今アメリカは、来週行われる中間選挙のことで騒がしい。共和党が下院だけではなく、上院も過半数を押さえたら、ウクライナへのアメリカの支援が抑制されるのではないかと心配していた(民主党が過半数を取った方が良いと思っているわけではない)。でも、そうなっても仕方がないという気持ちにさせられた。
 日本も同じだ。中国、北朝鮮、ロシアと紛争することになっても、アメリカが日本のために自国の若者を差し向けるようなことを期待するのは無理がある。そうあらためて思わされた。


 メリル・ストリープは、この映画が本格的な映画デビューだったんだ。とても美しかった。クリストファー・ウォーケンを挟んで思いを寄せるロバート・デ・ニーロとメリル・ストリープは、6年後の「恋におちて」でまた共演する。
 「ノッティングヒルの恋人」も同じだけど、本屋での出会いには結構憧れました。
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