昼行灯

美徳のよろめきの昼行灯のレビュー・感想・評価

美徳のよろめき(1957年製作の映画)
3.8
冒頭から月丘夢路の三面カット来てオー中平康となる。物語の内容としても、道徳と背徳のあいだで引き裂かれ、結局何がしたいのか誰にも伝わってない彼女のキャラクターに合致した演出だった。
鏡像という意味では、友人の宮城千賀子もそうだと思うが、どちらも姦通失敗していて、救われない。2人とも姦通の動機は、家に決められた恋愛抜きの結婚への不満にあったと思うが、たとえ姦通しても結末では制裁されるところから家父長制の抑圧は一貫している。当時この映画はよろめき夫人なる流行語を作り出したほど流行ったそうだが、大衆の手放しの人気には、登場人物が美形で上流階級であるがゆえの現実感のなさも大いに手伝ったことだろう。思えば「妻は告白する」も薬学部教授夫人という浮世離れしたヒロインのキャラクター設定だった。しかし家父長制からの抑圧を主題とするこの映画が人気を誇ったことは、家父長制の規範をより強固にしたとも言えるだろう。メロドラマ的恋愛に異議申し立てをした中平康がこのような映画を作ったところが普通に謎。宮城が月丘の恋をメロドラマのヒロイン的だと批判するところがあるが、それが中平康 の本音だったんだろうか。

ただ脚本の新藤兼人によるところが多いのかもしれない。物語展開はうまく100分にまとまったなというところだが、月丘による日記とボイスオーバーのナレーションが並立しているのが無駄。なぜナレーションが月丘の胸中を代弁しているの?ナレーションが男声であるだけに女性の心理を都合よく改変しているようにも見える。あと日記は余白取りすぎな。一方で相手役の男性の心情は驚くほど描写されていない。この男はどういうつもりで月丘と不倫しているのか。何も考えず束の間の逢瀬を楽しんでながらえているようにしか思えなかった。

美術は結構良かった。旅行に行く時の月丘の心理が表出したかのような渦柄の着物とか、鳥かごに収められた2匹の鳥のモチーフとか。特に鳥かごが映された後に月丘のバストショットをレースカーテンごしに撮っていたりして暗示的。月丘と男が会うのもレストランやホテルの一室など箱の中ばかりだった。箱の中じゃないのは、過去の接吻シーンだったり、バーの店内だったり。だけどバーでの逢瀬は夫に邪魔されるという。
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