茶一郎

甘い生活の茶一郎のレビュー・感想・評価

甘い生活(1959年製作の映画)
4.4
 巨大なキリストの像がヘリコプターに吊るされ宙を飛んでいる。そんな鮮烈なオープニングを皮切りに、ゴシップ記事ライターのマルチェロ(マルチェロ・マストロヤンニ)を狂言回しとして、現代のローマに巣食う上流階級のインテリ・芸能人・カトリックを軒並み切り込んでいく作品が本作『甘い生活』です。

 『ローマの休日』と合わせて、ぜひローマ旅行の前に観て頂きたい作品ではありますが、本作で描かれるローマは『ローマの休日』における美しくお洒落な街とは異なり、退廃的で、汚く、喧騒と怠惰に満ちた怪しい魅力を持った「場」として画面に映り込んでいました。
 この『甘い生活』、それに続く『サテリコン』、『フェリーニのローマ』は、フェデリコ・フェリーニ監督が第二の故郷であるローマを舞台にした三作で、虚飾に満ち満ちた街ローマをフィルムに刻んだ「ローマ三部作」と呼ばれる作品群になります。

 上述のキリスト像、トレビィの泉(この映画で見る観光スポット「トレビィの泉」は全く美しいものではない!)に入るハリウッドのセクシー女優、インテリたちの荒れ狂う乱痴気パーティ、そして最後に打ち上がる謎の怪魚。本作『甘い生活』は、フェリーニ作品らしい不連続な物語と後の『8 1/2』で「映像の魔術師」という異名を得る監督の美しくも不気味な画が、とにかく軽快で、お洒落な語り口で連なる作品という印象です。
 そして、そのブツ切りなお話に、フェリーニ作品に一貫した「男と浮気」というモチーフが盛り込まれます。特に主人公のマルチェロの恋人エンヤが愛を求めて神に祈る姿は、『カビリアの夜』の娼婦カビリアを重ねざるを得ません。
 加えてフェリーニ作品は『8 1/2』の有名なセリフ「人生は祭りだ。共に生きよう」を筆頭とするように「祝祭」、要するにお祭り騒ぎな登場人物の様子を常に描き続けていますが、本作『甘い生活』もその例に漏れない作品です。騒々しい街中のレストラン、パーティ、毎日がお祭り騒ぎ状態のローマにおいて、そこに虚無を感じているのがマルチェロでした。周りが盛り上がる中、どこか心地の悪そうなマルチェロの死んだ目が映る。お祭り騒ぎな本作のテーマ曲の一方、「死」と「無」を連想させる海と波の音が映画を包み込むラストは空虚なローマを、空虚な世界を強調します。
茶一郎

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