【1954年キネマ旬報日本映画ベストテン 第8位】
『本日休診』などの名匠渋谷実監督作。『大曾根家の朝』小沢栄、『喜びも悲しみも幾歳月』佐田啓二、『近松物語』香川京子らが出演している。
元軍人で終戦後は一家で義弟の家に居候し疎まれている岡部を中心に繰り広げられる風刺劇。戦前に囚われた旧世代と自由な思想の新世代を対比させて描いている。勲章は戦前軍国主義の象徴である。
とにかく演出に勢いがある。全体的に非常に端正ながらも力強いストーリーテリングがなかなかよかった。
元軍人の岡部が昔の部下に祭り上げられ勘違いしていく様を滑稽に描く。しかし結末はかなりハード。
岡部は部下に持ち上げられ「再軍備計画」を作成、自分の組織までつくり政治家とコンタクトをとろうとする。せっかく会えたと思ったら全くの別件であり再軍備案は批判される。
軍国主義に囚われた哀しき老人を風刺しつつ、労働者と恋仲にある娘とお妾のヒモになる息子とは理解し合えない。
まあ正直香川京子演じる娘はあの親父から離れられてよかった。相手もいい人そうだし。
ラストは想像のできない展開になり割とショッキング。終わり方も潔くて好き。
あ、杉村春子は杉村春子らしい役でいつも通りよかった。
風刺劇としてかなりレベルの高い秀作。あまり観る機会がないのはもったいない。ソフト化してほしい。