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私の好きな季節のakrutmのレビュー・感想・評価

私の好きな季節(1993年製作の映画)
4.7
一人暮らしの自宅で倒れた老いていく母親の世話を通じて、二人の姉弟の深い絆や愛情を描いた、アンドレ・テシネ監督のドラマ映画。

姉のエミリーに対して姉弟という関係以上の愛情を密かに抱いていて、その反動で姉や姉の夫と喧嘩が絶えず、姉夫婦と距離をおいている脳外科医のアントワーヌ。弟の気持ちに気付きつつも敢えて触れようとはしないが、弟や母親を歓迎しない夫との生活に不満を抱いているエミリー。この二人の微妙で繊細な心情が作中で明示的に語られることはないし、本人たちも決して口に出すことはない。それにも関わらず、カトリーヌ・ドヌーヴとダニエル・オートゥイユの円熟した演技のおかげで、あたかもその場にいるかのような近さで二人の心情を感じ取ることができる、とても心を動かされる珠玉の作品である。

そして、アントワーヌの気持ちに気づいているエミリーが、心のなかで葛藤しながらも、最終的に出した答え、つまりアントワーヌの気持ちに対するエミリーの返答が、映画のラストシーンで描かれる。映画のタイトルに関係するこのラストシーンがとても印象的で、そのあとにしばらく余韻が残るほどであった。

・ショートカットのカトリーヌ・ドヌーヴがとても印象に残った。この頃はすでに大女優として貫禄あるマダムのような役柄が多いと思うが、ショートカットにすることで内面に繊細さや脆さを秘めた女性というそれまでのイメージとは異なる女性像を見事に表現している。

・カトリーヌ・ドヌーヴとダニエル・オートゥイユは、本作のあとに、アンドレ・テシネ監督の『夜の子供たち』で再び共演している。こちらは二人を含む三角関係になるんだけど、映画としての出来はあまりよくない。

・カトリーヌ・ドヌーヴの実の娘であるキアラ・マストロヤンニは、本作が映画デビュー作であり、母親との初共演作である。さすがに若くて、初々しい。
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