akrutm

爛(ただれ)のakrutmのレビュー・感想・評価

爛(ただれ)(1962年製作の映画)
3.9
主人公の女性・増子が浅井という男性の妾から正妻になり、姪の出現に脅かされる妻の地位を守り抜くまでを描いた、増村保造と若尾文子というゴールデンコンビによる文芸ドラマ映画。

原作は徳田秋声の同名小説であるが、原作の大正時代が(この当時の)現代に置き換えられている。そのために、原作では身請けされた遊女という主人公の設定が、本作ではぼやかしたままになっている。おそらくは売春も斡旋するバーのホステスで、パトロンを見つけて一線を退いたという感じだろう。(公開当時はそう感じなかったのかもしれないが)主人公の背景が曖昧なままなので、彼女の友人たちのサブプロットも何となくしっくりこない。浅井という男性が妾を作るほど余裕があるようには見えないのも難点かも。

でも、本映画はそこら辺のストーリーにほとんど重点を置いていないと考えたほうがよい。増村保造監督らしいスタイリッシュで、サスペンスフルな映像とともに、前妻を表面的に気遣いながらも妻の地位を守り抜こうとするしたたかな女性を演じる若尾文子を堪能するのが正解だろう。セクシーショットも披露してくれるが、エロくはない。姪の栄子を演じた水谷良重のほうが、野暮ったい感じがするせいもあって、エロいかも。

一番の見どころは、浅井と関係を持った姪の栄子との格闘シーンである。浅井の制止を振り払って栄子の髪の毛を引っ張り倒し蹴りを入れたり、その後の別シーンでは栄子をチョークスリーパーで絞め殺そうとしたりと、若尾文子の演技は圧巻である。

これと同じようなシーンがある作品として思い出したのが成瀬巳喜男監督の『あらくれ』。この映画でも、主人公の女性を演じる高峰秀子が夫の浮気相手を格闘家ばりにボコボコにするという印象的なシーンがある。実は、この『あらくれ』の原作小説も徳田秋声であり、しかも両小説はほぼ同時期の作品である。(『爛』を国民新聞で連載した直後に『あらくれ』を読売新聞で連載している。)これらが徳田秋声の自然主義的作風の絶頂(by Wikipedia)って、どんな現実だよ。
akrutm

akrutm