Frapenta

リリオムのFrapentaのレビュー・感想・評価

リリオム(1934年製作の映画)
3.9
フリッツラング亡命後初の映画。最終的にアメリカに渡るわけだが、その前の道中であるフランスで撮られた作品である。


何度も警察にお世話になるような体たらくなクズ男リリオムとその男を愛してしまった変わり者の女ジュリーの話。DVするようなクズ男は不器用で言葉にしないだけで実は愛しているみたいな話、今や許されないと思うけど、正直自分は物語的には嫌いになれない。心が弱いと虚勢を張りたくて暴力にすぐ走るというのを理解していると、こういう人たちのことを可愛らしく思ってしまう。なお現実にいてほしくはない模様。

事前知識がなかったので、後半の天国行きというファンタジックな展開にはとても驚いた。「え、こういう感じなの?」と釘付けになってしまった。しかし、意外にもフリッツラングの表現主義的な描写と上手く調和していた(心象世界もある意味ファンタジーだ)し、何より天の描写は「月世界の女」ですでに確立されていたので、なかなかに得意げに作り上げたのではないかと思う。多分彼はこういう目をキラキラさせるようなロマン溢れる世界観が好きだと思う。
また、色々不器用ながら、相思相愛だったのもよかった。ジュリーはぶたれつつも、それを痛みのない暴力と表現していて、言葉のない愛を感じていたのだろう(痛くなくて愛のある暴力というとダウンタウンの浜田雅功を思い出す)。
また、天国に行ってからはかなりコメディチックなのもツイストかかってて面白かった。だけど、そこまでが少しぼんやりしてる印象があった。

とはいえ、最後の「ほれみろ」みたいなドヤ顔で終わるのはちょっとツッコみたくなった。どこまでいってもクズっぽいのは一貫性あっていいのかもしれない。娘も娘で今後が心配すぎる。


駄作ではないのだけど、テアフォンハルボウが本当に脚本が巧かったのだと思ってしまった。それともラングにラブロマンスが向いていないか。彼女はナチを信仰していたり、2人の関係が冷めつつあったりで、「怪人マブゼ博士」以降、亡命したフリッツラングと仕事することはなかった。残酷な歴史に巻き込まれた2人であった。


現代ではなかなかに受け入れ難いストーリー。だが、こういうのは嫌いになれない……。
Frapenta

Frapenta